12人が本棚に入れています
本棚に追加
ほら、今だって、君は僕のことを愛してくれているじゃないか。そんなに疲れた顔をして、僕のことを探し回っている。この漆黒の空間を照らすのは、何時もの月と、等間隔で配置された街灯だけ。そして、何時ものように、この空間には僕と君の二人だけだ。
あぁ、もう少し待って、もう少しで僕の心の準備も整う、そしたら、僕は君の前に姿を表して、君の疲れを癒してあげることが出来るよ。
僕は、髪を整える。シャツにしわが無いか確認する。うん。大丈夫だ。僕は、決意した。
彼女に向かって歩みを進める。ここは人通りの無い住宅街。今は食事時の少し前なのか、周囲の家屋のリビングと思われるところからは、白や橙色と言った蛍光色が漏れ出していた。
あぁ、そんなにキョロキョロと辺りを見回して、そんなに僕のことを待ってくれていたんだね。ちょっと待っててね、今すぐそっちに行くから。
そして、君は僕の姿を見つけたようだった。アァ、そんなに疲れきった顔をして、僕の姿を見たら元気になるだろう。だから、もう少し待ってくれ。そうすれば、きっと君も元気になれるはずだから。僕は、君に向かって走り出した。
「キャァァァァァーー!!」
突如、静寂に響き渡ったのは、君の悲鳴。何か怖いものでも見たのか? それはいけない。そう思った僕は、怯える君を少しでも落ち着けようと、僕から遠ざかってしまう君を必死に追いかけた。それはもう全速力で追いかけて、君の体を捕まえた。
「ひっ!!」
「大丈夫、大丈夫だよ。怖がらなくても大丈夫だから、何も怖がることなんて無いんだからね」
「イヤァァァァ!! 離して!! はなして!!」
必死にこの場から逃れようとする君。そんなに怖がらなくても良いというのに、君は必死に抵抗をして、僕から離れようとする。
「大丈夫だよ。僕が君の事を守ってあげるから、何にも怖いことは無いから、僕は君の事を愛しているから。君だって、僕の事を愛してくれているんだろう?」
君は僕の声を聞いていないのか、落ち着く気配を見せることは無い。その間にも、周囲の家が何事かと思ったのか、窓を開けて僕らの姿を見ている人々が増えだした。
「ほら、あんまり騒ぐと近所迷惑になっちゃうよ? まぁ僕にとっては近所なんてどうでも良いことなんだけど、ぐっ」
次の瞬間、僕は足に酷い痛みを感じた。どうやら僕の愛する君に足を踏まれてしまったらしかった。
最初のコメントを投稿しよう!