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そのまま君は、脇目も振らず何処かへと走り去る。僕は踏みつけられた足が痛くて立ち上がることすら出来ない。
遠ざかる君の後姿。そうか。ここまで来てもやっぱり君は体裁を気にしてしまうのか。それは致し方ないことなのだろうなと、僕は改めて思った。そして、君の前に姿を表してしまったことを、僕はちょっとだけ後悔してしまった。僕は君の迷惑になってしまったことだけが、今回君の前に現れて失敗したことだと思った。
そしてしばらく、どこからかパトランプの音が聞こえてくる。こんな夜に警察もご苦労様だと思う。その上で、こんな夜に事件を起こす人はやっぱりいるんだなと言う認識もある。だからと言って、警察がどちらの方角へ向かっていったとか、何をしに行くのかなどということは、別に僕にとって興味の欠片も無いこと。それは、何時もの騒音の一部、BGMの一部となって、知らぬ間にその消息を立っているのだろうなと思っていた。
相変わらず僕は足が痛くて立つことが出来ない。パトランプの音は消えることなく、何故か徐々に大きくなっているような、そんな気がしたが、それでも別にどうでも良いこと。君に会えて、君が悲鳴を上げたけれども、それは怖かったものがあったから、その怖いものから僕は君を守ることが出来たのだと考えれば、この痛みも気になる事はなかったし、今までに無い充足感を僕は味わっていたのだから、そんな細かいことを気にする理由など欠片も無かった。
そして、気づけばゴムと硬いものがすれるような音が耳に届いた。
何事かと、そちらへと視線をずらせば、一台のパトカーが、頭で赤いサインを回転させて、僕の近くで止まっている。そこから出てきたのは、二人の警官。どちらも制服と言われるものに身を包み、何故か僕の方へと歩いてくる。
「ホントに動いてないとはな……こいつは一体何を考えているんだ?」
「さぁ……俺らにはさっぱりわからんだろ」
「まぁ、とりあえず連れて行くか」
警官の二人は僕の腕を掴み、無理やり立ち上がらせた。先ほど君に踏まれた足が若干痛むものの、それなりの時間座っていたからか、歩ける程度には回復していた。
だが、何故僕は今、警官の二人に引っ張られているのだろうか。別に僕は、何をしたわけでもないと言うのに。
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