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「あの、すみません」
「何だ?」
「僕は、どこに連れて行かれるんですか?」
「どこってお前……」
「警察署だよ? なんでそんなこともわかんねぇんだよ。お前のせいで急な仕事が増えちまってこっちは大変なんだからな」
僕に文句を垂れる警察官は、ちょっと年を重ねた人のようだった。イライラとした口調で僕にそう吐き捨てると、乱暴に僕の腕を引っ張る。
「いたっ……あの、すみません。僕が一体何をしたというんですか?」
「はぁ!? 何を言ってんのお前は!? 強制わいせつ罪だよ。ったく。自分がやったことすらわからないなんて、どういう頭の神経してんだよ」
呆れたように警官はそう話してくれた。そして僕は、あけられた扉から押し込まれるようにして、赤い頭を回す自動車へと連れ込まれた。ドアが閉められ、一人の警官が横に乗り、もう一人が前の運転席のハンドルを握ることで、パトカーの窓から見える外の漆黒の景色は、流れるように移動を始めたのだった。
強制わいせつ罪。僕がその理由で警察にお世話になってしまう理由は分からなかったけれども、今日君に出会えたこと、そして、君が恐怖していた時、僕自身が君と言う存在を守ってあげられたことで、僕自身の充足感は満たされていた。僕は本当に今日、君に会えて幸せだった。
明日も僕は、君を守りに来る。しばらくは顔を見せないようにしよう。しばらくは、僕が秘密のボディーガードとして、君を恐怖から守ってあげよう。そしていつか、君がアイドルと言う鎖から解き放たれ自由になったら、僕と一緒に暮らしていける日々が来るだろう。そのときの彼女の表情。今まで見せた事の無い華やかな笑顔、魔力を帯びた黒き瞳の視線が、僕に向けられている光景が目に浮かぶ。そして、今まで満たされなかった彼女自身の充足感を、僕と言う存在が補完している未来を想像して、僕は、嬉しくなった。
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