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満を持し、私はほえる犬と、その傍で泣いている少女へと駆け寄っていく。
髪を顔の横で縛り、抱えているのはどうやら人形のようである。犬には首輪がつけられていて、この状況ならこちらに襲ってくるということは無いであろう。
私はすぐさま膝を着き泣いている少女へと駆け寄る。
「お嬢ちゃん。大丈夫かい?」
おぉ、私がヒーローをやっていて一番清々しい瞬間だ。分かるかこの感覚が? 泣いている子供、怯えている子供を助ける、この瞬間が私は一番好きなのだ。ヒーローという実感がある。私はこの瞬間のためにヒーローを頑張っているんだ。
しかしこの少女、この私が助けに来たというのに何故かこちらを見たまま固まっている。
「ほらお嬢ちゃん。お母さんはどこだい?」
「ひやぁぁぁぁ!!」
あ、待ちたまえお嬢ちゃん!! 一体どこに行くんだ!! 私がせっかく助けに来たというのに、手を伸ばした瞬間行き成り走り去るというのはヒーローである私としては悲壮感に満ち溢れるシチュエーションなのだが……。
「バウバウ!!」
おっとそう言えば、私の目の前で吠えている犬は少女を泣かせた悪党だったな。少女が逃げてしまったのは仕方ないとして、少しおしおきをせねばなるまい。
「ほら悪党よ。私の正義の裁きを甘んじて受けるが良い」
「く、クゥゥン」
先程までの威勢が無くなった。さすが私がヒーローというだけある。この雰囲気だけで相手を黙らせるのはさすがヒーローだと皆も思うのではないか?
「あ、あ、おまわりさん!! あの人、あの人です!!」
ん? おまわりさんだと? そうか。私の活躍を聞いてついにおまわりさんという私の味方も動き出したのだな。良かった良かった。それでは私は、この場を離れることにしよう。
「ちょっと一緒に来てもらおう」
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