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「そん…な…」
悪魔の少年は限界ぎりぎりまで魔力を絞(しぼ)りだし、それこそ本当に捨て身の攻撃をした。
けれどその攻撃が終わってみるとそこにいたのはやはり傷さえ全くなく、微かに笑う天使の青年だった。
もう攻撃はおろか意識を保つ為の魔力さえ使ってしまった少年は、絶望と天使に掴まってしまうといった恐怖で身体を震わせそのままゆっくりと意識を手放した。
手放す直前に羽や尻尾が勝手に消えてしまった感覚があった。
そして虚ろな瞳で何かを見つめてそれを掴もうとするかのように手を伸ばし、泣きそうな顔で何か呟こうと口を開き僅かに動かしたかと思うとすぐにその瞳を閉じて意識を失ってしまった。
身体中の力が抜け過去に一度だけ体験した事のある、落ちていく時の独特の浮遊感を感じた。
しかし次の瞬間、少年の身体がガクンッと大きく揺れたかと思うと空中でその動きを止めた。
ルイが伸ばされた少年の腕を掴んで止めたのだ。
「危ないヤツだな。」
小さい声で呟きながら少年を見つめて軽く苦笑し、腕を引っ張り上げて両腕に抱き抱(かか)え少年の顔を覗き込んでみる。
少年は先程まで感じていた怒りや憎しみ、恐怖といった負の感情がまるで感じられない少年らしい無邪気な寝顔をしていた。
静かに寝息を立てて眠るその姿は、悪魔だと知っていなければ誰もが天使だと答えそうな程綺麗だった。
「早く天界に連れていかねぇと、やばいか?」
少年の魔力の残量を確認して呟くとルイは天界があるであろう方向を見て飛んでいった。
少年に負担がかからないよういつもより速度を落とし、早く天界へ着けるよう出来るだけ急いだ。
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