果実

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 彼は親指の腹で、白く柔らかな綿に包まれた果肉を撫でるようにして、慎重に剥いている。  しかし、途中で柑橘の香りが一気に弾け、鼻腔をくすぐった。 「ぁ…」  果肉を傷つけてしまったらしい。果汁が指を伝って、彼の手首まで落ちてくる。  彼はオレンヂごと手を持ち上げ、手首に細く尖らせた舌を這わせた。  まるで手負いの獣のような仕草。  しかし、薄い袋の破れてしまった果実からは、蜜が止め処もなく溢れて来て、彼の手首を濡らす。舐めても舐めても追いつかない。肘に近い場所まで、いく筋もの果汁が流れた。 「ベタベタになる。舐めて」  彼に言われて、私は少し身をかがめ、彼の肘に唇を寄せた。  落ちてくるオレンヂの果汁を啜り、伸ばした舌で手首までを辿って上る。  そうしている間にも、彼は手を止めずにオレンヂの皮を剥いていくから、舐め取ってもきりがない。  甘さと酸味の中にある、オレンヂの皮独特の苦味に舌が少し痺れる頃、彼はようやく 「剥けたよ」 と言う。  そうして彼は一房を取り、身を反り返らせるようにして果肉を剥き出しにすると、私の口の前に差し出してきた。  私は唇を開き、果肉を口に含む。今度こそ苦味のない、よく熟れた甘さが喉に心地いい。  少し品なく、じゅる、と音を立てて果汁を啜る。  それから薄皮の部分を持った、果汁にまみれた青年の指先をしゃぶった。 「綺麗にしてくれるの?」  彼はそう言って、私の舌を弄ぶように指先で撫でたかと思うと 「ねぇ、もっと食べたい?」 と首を傾げる。 「食べたいよ」  私はそう答え、喉を鳴らして次の一房を待つのだ。  オレンヂを剥く彼は、最高にセクシーだと、そう思う。
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