プロローグ

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ブレスパウダーなるものが、この世界には当たり前のように存在していた。 それはこの国に住まう人ならば誰でも知っているものであり、それ無くしてこの世界は語れない。 単純に言うならば、ブレスパウダーとは数回服用すると自分では摂取を止められなくなるという中毒性薬物。 服用したときだけ多幸感と夢を見せ、薬が切れたとたんに地獄へと誘う。 離脱症状から始まり、幻覚、幻聴は当たり前。 他にも、譫妄<センモウ>や強迫観念からくる強迫症状など、人の心を壊す禁断症状。 そんなブレスパウダーは、この国──桑林国<ソウリンコク>で生み出され、同時に国の存亡を脅かしていた。 全国で二十パーセントを越える服用者と、それを餌にブレスパウダーを大量生産して配る組織。 そして、ブレスパウダーの需要量を少しでも減らすために確立された、第一級危険薬物取締役。 その三者が桑林国内で争い、殺し合い、恨み合ってきた。 だが今から六年前。第一級危険薬物取締役の中の、ある少数精鋭部隊により、薬物を製造・販売していた国内最大組織が討伐された。 それによりブレスパウダーは急激に減少。ブレスパウダーそのものが過去のものとされ、名付けられた歴史名は『愴痍時代<ソウイジダイ>』。 まるでブレスパウダーが完全に消えたかのようであるが、禁断症状や後遺症に悩まされている国民は数えきれない。薬物は減少しただけであって消滅したわけではないのだ。 当然、弱った人の心につけこみ、僅かなブレスパウダーを販売し続ける悪党もいる。 ブレスパウダーの根源といえる最大組織が討伐されてからたった六年。 これで平和になる……と人々は歓喜したが、実際は修復するには短すぎ、平和と呼ぶには早すぎる。 この国の人たちにとって、愴痍時代を過去と呼ぶのはあまりにも残酷だ。 実質、『終わらない時代』。 これは、その終わらない時代を生きる二人の旅人の物語────
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