面倒臭いだけのひと。

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今まで味わったことのない、その感覚に身を震わせて、恐怖する。 得体の知れない恐怖、それが彼女に襲いかかったのだ。 身震いが止まらない。 「……やれやれ、慣れていない奴にこのレベルは辛かったか」 とりおとしたリミッターを拾い上げて腕に装着する。 「あ、あんた……それつけてて何もないの」 「有る訳無いだろ。俺が俺の為だけに作ったんだから」 普通にそれを付けて、腕を回すリオン。 冗談じゃない、カレナはそう思った。 あんなもの、付けているだけで魔力が空っぽになる。 魔力リミッターは本来、体外に放出する魔力を制限する物の筈だ。 だと言うのに、リオンの付けているリミッターは、魔力を吸収する。 いや、さっきの説明を聞いて分からないほど、彼女の頭は貧相では無い。 にしたって、吸収量が半端じゃないのだ。 恐らく、現在の彼女がリオンのあれをつけたとして、数時間もすれば、初級魔法一発も放てなくなるだろう。 それに加えて酷い脱力感。 最早一種の病気と言っても過言では無い。 「おかしいでしょ……あんたそれつけて普通でいられるなんて、どうかしているわ」 「おいおい、人を変人扱いするなよ」 「リオン様は十分変人ですよ」 カレナとリオンの会話に割って入ったのは、エプロン姿のファイである。 何故かメイド服に着替えているピアナと一緒に料理を運んでいる。 「まったく、今度は一体何をしたんですか」 また溜息を吐きながら、テーブルの上に料理をおいて、リオンに尋ねる。 「お前まで俺をそんな扱いするか……」 「当たり前です」 何を今更、と言わんばかりにジト眼で見ながらファイはそう言う。 「別に何もしていないさ。俺の持っていたリミッターをカレナに貸しただけだ」 「そんな事をしたんですか……貴方自分の魔力量を分かってそんな事をしているんでしょうね」 「分かっているつもりさ。でも、カレナが疑うからさ」 口を尖らせてカレナを咎めるように見るリオン。
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