7442人が本棚に入れています
本棚に追加
その女子生徒は聖オラトリオ女学院指定の制服に身を包み、あろうことか箒に腰かけて登校していたのだ。
その速度は、速いすぎる、という訳でもないが、やはり歩くよりも早く、少年が小走りにならなければならないほどである。
箒に腰かけたなんとも古風な魔女の容姿は、そう一言だけ。
美しい。
その一言に限るだろう。
端正な顔立ち、胸はふくよかで腰は引き締まっており、肌はミルクのように白くきめ細やかだ。
優雅に空を飛ぶ彼女からは、そこはかとない気品を感じさせられる。
健全な男子生徒諸君は当然のこと、周囲の女子生徒達は、同性でありながらも彼女の姿に見惚れてしまっていた。
それほどまでに彼女の姿は美しく、魅力的であったのだ。
嫉妬する事すら忘れるほどに。
とはいっても、そのすぐ後ろで走っている少年は、そんな事を一切考えたことがないだろう。
彼の脳裏にあるのは、疲れたの一言だけ。
先程からずっと走って来ていたのだ。疲れない訳もない。
とはいっても男子、息切れを一切していないのは、評価に値するべき点であろう。
前を通り過ぎたのが絶世の美女であったが為に、印象が薄いであろうが彼もそこそこに整った顔立ちをしている。
「少しは速度を落として下さいよ、エル様」
少年は前を飛行する魔女学生に向かって、そう声をかける。
「何を言っていますの。この程度で情けない」
後ろを振り向く事無く彼女は少年に言った。
「そんな事を言われてもですねそろそろ、疲れと言うのが……」
「まったく、情けないですわね、ファイ。このくらいで音を上げるなんて」
ほんの少しだけ速度を落とすエル。
最初のコメントを投稿しよう!