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取り残されたファイは、ぼんやりと思う。
(俺はどうすれば……)
溜息を吐いて誰か別の教師に聞こうとした瞬間だった。
「お前も大変だな」
突如として背後から声がした。
はっとして振り返るファイ。
そこには一人の無精髭を生やした、とてもお嬢様学校に居るとは思えない男が立ってた。
幾ら気を抜いていたと言っても、なんの気配も無く背後に立つなんて芸当、普通の奴に出来る訳がない。
只、影が薄いだけか、それとも……。
目の前に現れた男に対して警戒心を抱くファイ。
「おいおい、そんなに警戒するなよ。俺はお前の担任になるんだぞ」
驚きだった。
目の前に立っているこの男が、まさか本当にこの学校の教師であったとは……。
こんな無精髭を生やした、やる気の欠片も感じられないおっさんがこの、お嬢様学校に居るなんて。
ユーレリウル学園には何人か似たような教師は居たが。
「そ、そうでしたか。宜しくお願いします」
一応、警戒態勢を解いておく。
それを見た教師は苦笑しながら自己紹介をした。
「まぁ、そう固くなるなや。俺の名前は、ヴァン・リコ・ヴェルトールって言うんだ。宜しくな英雄の息子」
「ファイ・クロノ・デルシオンです。その、英雄の息子って言うのは止めてください。自分は父さんほど、すごくありませんから」
自己紹介をしてそう言う。
本当に、父親ほどすごい人間では無い。
「まぁ、気にすんな。早速だが、教室まで行くぞ」
喉で笑いながらヴァンは歩き始めた。
しんと静まりかえった廊下。
乙女の園を男二人歩くと言うのは、なんかおかしな感覚だった。
そしてその静寂が、ファイに考える余地を与える。
リコ・ヴェルトール……どこかで聞いた事のある名前だ。
何時何処でだったかは、覚えていない。
ただ、こう――ひどく恐ろしい事だけは何故かわかる。
一人悶々と考え込んでいると、あっという間に教室の前までたどり着いてしまった。
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