少女たちの楽園へ……

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ようやく過ぎ去った嵐を見て、ファイはやれやれと溜息を吐く。 身体の節々が痛い。満遍なく全身を打ちつけている。 回復魔法を使いたいが、生憎と使える人物がこの学校にいるだろうか。 回復魔法は非常にその難易度が高く、また多量の魔力を消費する。 すり身に打ち身程度の傷をいやすのにも、上級魔法に匹敵するほどの魔力を費やす。 例え、使える人が居ても、そう易々とは使ってはくれないだろう。 耐えるしかない、そう判断したファイは痛む体で立ち上がる。 ファイの周辺はそこだけ嵐が通った風に、物が散乱していた。 教科書、机やカバン……これを一つ一つ直していかないといけないとなると気が重い。 しかし、本当に困った。 前の反省から、行動の足枷となる行動はしないだろうが、現時点でも十分に迷惑極まりない。 リオンの行動に支障は一切ないが。 あくまで困るのはファイ個人である。 例を挙げるのなら…… 「今のお嬢様はカレイネル家の一人娘だよね!」 「なんでお兄ちゃんって呼ばれているんだ! 羨ましいぞ畜生!」 「あの子は絶対、誰にも媚びない事で有名だったんだぞ!」 「クールビューティーってやつだ! それがあんなに甘えて……一体何をしたんだ!」 「このラブコメ主人公!」 ワイワイガヤガヤと再び質問と妬みの嵐。 それなりに可愛らしい顔立ちをしているシルノが、有名でない訳がない。 ましてやカレイネルの娘。 その肩書が彼女にかかっているのは言うまでも無い。 「おー、お前ら。転校生を囲うのは構わないが授業を始めて……って」 ヴァンが教室に入ってくるなり、ファイの周囲の惨状を見て絶句する。 「おいおい、何があったんだよ。まさか殴り合いでもした訳じゃないよな」 そんな事をすれば退学必至。使えている家の名に泥を塗る事になるので、当然する訳がない。 「ヴァン先生、すいませんちょっと闖入者があったもので」 ファイは苦笑しながらそう言う。確かに、あれは闖入者だ。 「まぁ、なんだって構わないが。急いで片付けろよ」
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