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沸き上がってくる恐怖を振り払うように、ヴァンはそうファイに言う。
「……わ、分かりました……」
模擬戦と言う名の殺し合いをしていれば、否が応でもトラウマになるのだが、いつまでもそれに立ち止まっている場合では無い。
進まなければならないのだ!
前を向いて! 踏み出さなければならない!
立ち止まる事は死を意味するのだ!
「よし、それでこそ刀を持って来た奴だ!」
「それとは関係が無いと思いますが……」
気合いの入っているヴァンに静かなつっこみを入れるファイ。
「気にするな! では、行くぞ!」
ヴァンは気分が若干落ち込んでいるファイを連れて、集団から離れた場所へ行く。
日差しはまだ鋭い。
「では、やるぞ」
大剣を取り出して、ヴァンは構える。
その武器もその構えも、すべてファイの心の傷に触れる。
「……た、大剣……!」
怯えた風にファイは呟く。
「これまでトラウマかよ……なんとなく想像がつくな」
ヴァンは一人そう呟くと、ファイへと突っ込む。
先手必勝! すでに開幕しているのだ。
怯えていたファイも、向かってくるヴァンを見ると気合いが自然と入る。
戦わなければならないと、本能がいうのだ。
真横に大きく振られた大剣をバックステップで華麗に交わす。
そして、体勢を整えて刀に手をかける。そして、瞳を鋭くしたまま見開きヴァンを見据える。
ファイは彼に尋ねた。
「聞いていませんでしたけど、魔法はありですか?」
「当たり前だ。模擬戦だっつっただろ」
「では……!」
魔力を刀に溜めて、抜刀。
炎の刃がヴァンへと向かい、飛んでゆく。
大きな炎ではあるが、密度は大した事は無い。
「この程度なら!」
ヴァンは大剣を一振りすると、それをかき消す。
その程度は当たり前だ。ファイですら予想はしていた事である。
だが、その次だ。これまでの訓練で培った事の全てを費やさなければ、この教師には勝てない。
ファイ自身の本能と、培ってきた経験がそれを告げている。
今までならば炎刃を飛ばしただけで様子見だっただろう。
だが、今回は違う。
攻めに出たのだ。
「行進曲……!」
掻き消された炎の後ろにファイはぴったりとくっついていたのだ。
刀を振った時点で当たらない絶妙な間隔で。
流石のヴァンもこれには驚いた。
舌打ちをすると、遠心力を利用してファイの一太刀を回避する。
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