少女たちの楽園へ……

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もうひきつった笑みを浮かべる訳にもいかない。 目の前にいる奴はユーレリウル学園の担任ではない。別の男なのだから。 次の行動はファイが先に起こした。 細かな炎の牙を、ヴァンへ向けていくつも放つ。 それは地属性魔法によって、すべて阻まれる。 牽制だ。この次にどう出てくるか。 相手が火属性や、水属性を使ってこない以上、こちらはまだまだ手を隠している状態になる。 近接すれば、連撃は出来る。 行進曲は使ったが、まだもう一つ技が残っている。 序曲はすべての技の基礎。 前奏曲は連続的に加わる技の最初だとすれば、序曲は本当に初歩。 幾つかの型と魔法を組み合わせただけの、簡易的な技にすぎない。 だが、その攻撃力は高い。純粋な技だからこそ、攻撃力は高いのだろう。 防戦一方を気取っているヴァンも次の一手に、出られずにいた。 まともな手ならば、すべて返してくる。 手加減をしたくても、出来ない状態。 (……前線から離れていた事がこんな所に出るとはな) 当然、彼にとってファイなんて大した事の無い子供。 実力はそこらで威張り散らかしている、不良なんかよりも遥かに高い。 改めてユーレリウル学園の質の高さに驚くとともに、ひとつの疑問が生まれる。 幾ら彼がユーレリウル学園の生徒だからと言って、これは強すぎる。 才能、という言葉もあるだろうが、それ以前にこの動きは才能だけでは不可能だ。 しかし、これだけの動きをするのに、ユーレリウル学園の訓練でも不可能だ。 だとするのなら、彼は一体何者なんだろうか。 いや、答えは出ている。 彼は、かの有名な暴風の魔人と、剛炎の姫君の息子だ。 それだけで説明がつくと言えばつく。 だが、彼の感覚は非常に庶民に近い。ヴァンやエルの言葉にいちいち反応して、突っ込みを入れる辺りが、どうもおかしい。 思えばあのエルという女子学生も妙なところがある。 いや……そんな事を考えるのはやめよう。 今は目の前に居る、この無意味に実力がある学生をどう傷つけすぎずに捩じ伏せるかだ。 ヴァンは大剣を一度振るうと、地面に叩きつける。 それと同時に、地面が割れた。 その地割れはファイの所までまっすぐに向かい、そして砕けた地面の破片が周囲へ散らばる。 そのおかげで、牙はすべて撃ち落とされる。
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