少女たちの楽園へ……

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ただ、血統という言葉だけは信じていないが。 「そんな違いがあって、すべて同じ強さだと思うか? 自由時間の使い方まで、一緒な訳が無いだろ。だからそこで個人差が生まれる。『同じ』であっても『違う』ものになるんだ」 動物である以上、才能はある。どれだけ頑張っても強い奴が生き残る。 ただ、最後に生き残るのは……。 「簡単な話だろう? これが別の環境で、別の育ち方に変わっただけだ。別に、面白くもなんともない。ほんのちょっとの違い。俺が貴族であっても、お前たちに抜かされる事は十分にあり得るんだからな」 冗談半分で言った風におどけてヴァンはその言葉を口にした。 その言葉を聞いた生徒達は、一様に感動した風に「おー」と口を開いて言う。 その言葉が正しいのかと聞かれたら、否と答えるだろう。 正解なんて存在しない。 いや、あるとするのならそれは生き残る事だろう。 生物として。動物として。 ヴァンの言葉に一番近いのは恐らくリオンだろう。 血統も貴族だからという言葉も全てを嫌う。 出来る奴が出来るようにするべきだと思っている。 ただ、それに他意が入ってはいけない。自分の意思で決めなければ、意味を失うのだ。 そしてファイはリオンの教えを理解しようとしている。 簡単な理論だ。だからこそ、難しい。 「おつかれ、お前はもう戻っていいぞ。お前ら! 二人一組になって、組手だ。武器は使用禁止。使える状況にあるとも限らないからな。後魔法は、危険だから使うな」 ヴァンが指示を出すと、蜘蛛の子を散らすかの様に生徒達は散らばって行く。 それぞれが、なるべく足場の良い所へ行っている。 面倒臭いからだろう。それにけがをする可能性も高いから。 ファイから見れば少しおかしな事だが、仕事をしている彼らにとって当然の配慮である。 いざという時に動けなくては意味が無いのだ。 まぁ、いつも足場が良いとは限らないが、彼らの仕事上、足場が悪い事なんて滅多にないだろう。 足場が悪い場所なんてどこにあるのだろうか。 「ファイ君! 僕と一緒に組手をやらないかい?」
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