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「もしかして一目惚れですか?」
ちょっとばかりからかってみる気になる。
ファイとしても、リオンが恋とやらに気を紛らわせるのは、大いに賛成だったりする。
ファイからすれば、恋も知らないで生きて来た彼は異常だ。
それに、ここではお互いに一介の学生である。
戸籍上も、見た目も、十代の学生にしか見えないのに、恋をする権利が無いなんて、誰が決める事が出来るだろうか。
恋をするのは大いに歓迎である。
さりげなくリオンは、女性関係は幾度かあった事はあるが。
そもそも、彼は恋という感情を通り越して、まず先に他者への自らの娘への愛を知ってしまった。
家族への愛は、元から持ち合わせていた。自分を慕ってくれる者への愛も忘れた事が無い。
甚大な愛を彼はその一心に受けていた。
だからこそ、それに報いるべきだと考えていた。
それ故に、彼は復讐という名の蜜に取りつかれたのだろう。
「いや、そう言う訳じゃ無い。そう言う訳じゃないんだが……見覚えがあるんだ」
眉をしかめて言うリオン。
確かに、似ている。
彼自身の仮説が正しいのなら、だが。
しかし、この世には他人の空似という言葉がある。
もしかしたら、転校生である彼女もそれかもしれない。
「それって運命ってやつなんじゃ無いですか?」
ファイは尚もリオンを茶化す。
普段、自分が茶化されている恨みだ。
「だから違うと言っているだろう。全く、そんなに俺が女子に関して何か言うのが珍しいかね」
「ええ、珍しいです。まったく、彼女みたいなのが好みだったんですか。成程、クールな美少女が好き、と」
「……好きに言ってろ」
リオンは言うと、もう一枚持っていたそれを手に持ち、彼女の前まで行く。
ここで鎌をかけるのは、正直得策では無い。
得策ではないが、少々話をしてみたい。
自分の見た目に自信があるわけでもないが、それでもまぁ多少はまともだと思っている。
見た目だけは。
「クルドさん、でしたね。はじめまして、俺の名前はリオン、リオン・ヒルタレンと申します。貴女はもう既にご存知かと思いますが」
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