少女たちの楽園へ……

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その知識を蔑ろにして、魔法を使用するなんて片腹痛い。 魔法は魔法ととらえられがちであるが、エルにとっては所詮、簡単な理科で説明できるような代物だ。 質量保存の法則だって働くし、慣性の法則だって働く。 簡単な話では無いか。 命だってテロメアで説明できているようなものでは無いか。 尤も、不可解な――それこそ魔法的な理論は少しばかり存在しているが。 個である人間は多で成り立っているなんて、おかしなことだと思わないのだろうか。 生物、と呼ばれる中には単で一個の生命体であるものもいるのに。 「そもそも、魔導書が廃れて行ったのは、戦場での戦闘が近接戦闘に移行していったから、なのです。 かつては魔法だけでの戦闘でした。剣や槍、銃などの現代的な近接戦闘では魔導書を使用した強力な魔法に対抗できません。 先程、皆さんも目にしましたわよね? あれほどの魔法が飛び交っている光景が普通でした」 もう、その場にいる全員がエルの話に聞き入っている。 皆、興味津々だ。 歴史の講義でありながら、魔術の講義でもあるからこそ、面白いのだろう。 教科書にはそんな事が描かれてはいなかった。 いや、魔法での戦闘が主であったという記述はあった。 だが、その内容までは詳しく知る事は無かった。想像や推測ならば難しくないだろう。 だが、彼女の口調は確信しているものだ。絶対にこうであった、という。 彼女の話を聞いていたアシュレイはふと思う。 彼女は考古学者の家系なのかしら? 「ですが、そんな魔法が飛び交う戦場で、一つの特別に編成された部隊が目立ち始めました。いえ、決して目立ってはいけない部隊なのですがね」 エルは悪戯っぽく微笑むと生徒たちに質問する。「では、その部隊とはどんなものだと思いますか?」 そう問いかけると、少女達は一斉に考え始める。 「剣士、でしょうか?」一人の少女がおずおずと答える。 だが、それは正答では無い。 「違いますわ。普通の剣士では強力な魔術に対しての対抗が出来ませんもの」 だったら、答えは何なのだろうか。剣士以外に彼女たちに思い浮かぶ事は無い。 「皆さんも一度、狙われる事になるのでは無いのかと思いますが、その部隊というのは『暗殺』部隊です」
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