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どうやら、逃げるタイミングを窺っているらしく、時々体が後ろに、ほんの少しだが移動しているのが分かる。
だが、そう易々と逃がしてなるものか。
ファイは意気込みと共に、刀を一振りする。
迸る炎刃。それは一直線に、男まで向かう。
当然、当たると死ぬので回避する。男は真横に跳んで、ファイに背中を向けた。
「ま――!」
追いかけようとした次の瞬間に、男は魔法によって拘束させられていた。
「うふふ、乙女の敵をそう易々と逃がすとお思いで?」
エルだ。拘束魔法を使用して、男の自由を奪ったのだ。
だが、男もそう簡単には捕まる訳にもいかない。
腰に備え付けられた「何か」が地面に落ちる。
カン、と甲高い金属音を響かせたかと思うと、爆発し煙を巻き散らす。
スモークグレネード、と言う奴だろう。
煙幕で自分の姿を覆い隠して、逃げる。蛸が墨を吐いて逃げるのを同じ手段だ。
だが、今回はエルの拘束魔法が使用されていた筈。
そう簡単には逃げられない――ファイはそう安易に思いながらも、風魔法で煙を吹き払う。
だが、そこに居るべき人影は無かった。
「逃げられた……のか?」
驚いた、と同時に悔しさがこみ上げる。
あと少しでチェックメイトだったのだ。それを逃げられるのは非常に悔しい。
「くそっ!」その場で毒づくと、ファイは刀を鞘におさめる。
(……幾ら魔法陣を使用する必要すらない、簡易的な捕縛魔法であったとしても、それを力任せに引き千切って逃げるなんて荒技……普通の奴には出来ない。手練れ、とはいかないがそれなりに実力はあるらしい……)
内心舌打ちをしながら、エルはそう考える。
煙幕の間に、動きを奪っていた魔法を自身の魔法で消し飛ばして、姿が見えない所まで逃げる。
暗殺者顔負けでは無いか。
そう簡単に捉える事が出来ないのも納得がいく。
今はそんな事よりも……。
「お怪我はありませんこと?」
女子生徒にエルは声をかける。
よくよく見るとこの娘、エルに喧嘩を吹っ掛けて模擬戦闘を行った生徒だった。
「あ、あんた達! 来るのが遅いわよ!」
やはり学校でのしゃべり方、口調は偽りのものであった。
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