聖女と淑女と少女達とそして従者

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どんな人物かは知らないが、同情だけはする。 同じ我儘お嬢様に仕えている身分として。 「お嬢様!」誰かが走ってくる、足音が聞こえてきた。 恐らくはこの娘の従者であろう。 しかし、主人を放っておいて何処に行っていたのだろうか。 ……予想はつくのだが。 「お、遅いわよ! ビリー!」 走ってきた従者は何とビリーだった。 これにはファイも驚いた。 「ビ、ビリー!」 思わず名前を口から漏らしてしまう。 「ファイ? 何で君が……」 ビリーも驚いた風に口を開けて、そう呟いた。 「あら? 知り合いでしたの?」 特段驚いた風もなく、エルはそう言った。 「ええ、同じクラスなんですよ」 「あら、それは奇遇です事。私も彼女と同じクラスなんですの」 目の前にいる少女を見ながら、エルは言った。 「それよりも、今の男に心当たりは?」 そんな事はどうでも良いらしく、エルは本題に入る。さっさと話を聞いてしまいたいのだ。 こっちは貴重な時間を浪費してきているのだから。 「心当たりなんて……ある訳無いでしょ!」 「そうですか。まぁ、仕方ありませんね。無差別に襲っているとしたら、危険極まりないですわね」 「だったら何とかしなさい!」 「私たちに何とかしろと申されましても……」 困った風に頬に手をやるエル。白々しい演技だ事。 その為にここに来たというのに。 「あんたあれだけの実力があるんでしょ。だったらどうにか出来るでしょ」 「と、言われましても……私は別にそれを専門にした訓練を受けた訳ではないので」 「とにかくどうにかしなさい!」 つくづく小うるさい娘だ。 「お、お嬢様……」 おどおどした風にビリーは主人に声をかける。 「何よ!」声を荒らげて、少女は従者の方を向く。 「彼女達は唯の民間人です。そんな事をおっしゃられるのは、酷なのでは……」 「学園長と戦って勝つような奴にそんな心配が必要なものですか!」 「え? そ、そうなんですか?」 思わずファイの方を見ると、彼は凄まじい形相でエルを睨みつけている。 「エル様ぁ? そんなことやっちゃってくれちゃったんですかぁ?」 この時、ビリーとその主人は初めて知っただろう。 笑顔がここまで怖いものだという事を。
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