聖女と淑女と少女達とそして従者

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だが、獲物は一つしか無い。 杖を剣にしているのだ。 そもそも、剣を両手に一本ずつ……つまりは二刀流の構えなんてしない。 重量があり過ぎるせいだ。刀も同様に二刀流になんて滅多にしない。 だからこそ、二刀流とは言い難いが、刀と鞘を持っているファイの攻撃を捌き切る事は出来る訳がない。 が、エルはそれを難なくこなす。 避けられない攻撃だけを剣で受け止め、その他の攻撃をふわりふわりと回避していく。 風に踊っているスカートすら切り裂く事は出来ていない。 此処でファイは気づいた。 これは風纏いを使っている事を。 風纏いは、回避を目的とした魔法戦術。 だからこれ程までに回避ができているのだ。 舌打ちをひとつすると、炎を纏わせた一撃を放つ。 「技」には「技」で対抗するのが妥当。 距離をとったエルに対して、ファイはより大きな炎刃を放った。 そうして、その後ろにぴったりと付いて突き進む。 既に炎は刀に灯している。 行進曲。つい最近使うようになった技の一つだ。 その意図に気付いたエルは、魔法陣を展開。同時に複数魔法を発動。 水での攻撃を連続して浴びせかける。 襲いくる雨の勢いは一向に衰える気配を見せない。 だが、この程度の水撃弾幕で消え去るような、そんなひ弱な灯では無い。 迫りくる魔法をすべてはじいて、至近距離まで詰めたその瞬間、エルの目の前に突然大きな壁が現れた。 恐らくはこれが目的だったのだろう。 魔法陣とはそう言ったものだから。 「っ!」 速度を落とすには余りに速すぎる。 だったら、もっとシンプルな方法がある。 「ぶぅち抜けぇぇぇぇぇぇッ!」 速度を落とす事をなんの未練もなく、諦めるとすぐに右の手にある刀を振り下ろした。 まずは炎刃がぶつかる。そして、その次に刀が壁をは溶かそうとその牙を立てる。 結構な強度と耐熱性があるらしいそれは、成程そう簡単に壊れてはくれない。 だが、徐々にではあるがこれを破壊出来そうな気配は見えている。 だったら――。 刀だけでなく鞘も使用すれば良いだけの話し。 すぐさま鞘を壁にぶつける。 激しい衝突音が響いたその一瞬後に、その衝突音は破壊音と変わっていた。
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