聖女と淑女と少女達とそして従者

36/47
前へ
/617ページ
次へ
こんな事を言っている所を見れば、敵が内外に多い事は明白だ。 只でさえ、貴族なのだ。 さまざまな所から、知らない内に恨みを買う事が多いというのに。 「それで、そいつは何か言って無かったかい?」 「何かって?」 「そうだな……組織とか、とにかく何かしらの発言をしなかったかい?」 「しなかったわ。なんにも言わずに突然私の腕をつかんだのよ」 「で、ひっぱったと」 「そう。その間になんにも言わずにね。不気味ったらありゃしないわ」 確かにその通りだ。 なにも言わず、顔も見えない状態で腕を引っ張られてみろ。 怖くて怖くて仕方ない。 余りに「正体不明」なため、溜息を吐くクロノに、ファイは自分の感じた事を報告する。 「父さん、あいつはかなりの手練れだ。上からの攻撃に反応してすぐに避けるなんて」 「お前の実力がまだまだだっただけなんじゃ無いのか?」 「んなっ、酷いぜ父さん」 「事実だから仕方ないのでは無くて?」 「エル様、貴方は黙っていて下さい」 「あらあら、怒られちゃいましたわね」 くすくすと笑うエル。随分と余裕を取り戻したらしい。 さっきまでだったら、すぐに噛みついて来ていたというのに。 「でも確かに随分と強い事は確かですわ。幾ら油断をしていたとは言っても、私の拘束魔法を打ち破って逃走するなんて」 「はっ、あんたが弱いだけじゃ無いの!」 「あらあら、私にすら勝てなかった貴女が一体何を言うのですか」 鼻で笑ったビーチェを拘束魔法で縛りつける。 先程と同様の魔法束縛。 いかに魔法陣を使用していない簡易的魔法だったとしても、この程度の小娘風情なら脱出する事は出来ない。 「ちょっと! 何をするのよ!」 突如として全身の自由を奪われたビーチェはエルに怒鳴りつける。 当然だ。誰だって縛られて喜ぶ人間はいない。 いや、いたか。マゾヒストという人種が。 「お嬢様!」ビリーは慌ててビーチェの拘束を解こうとする。 「早くしなさい! この役立たず!」 「申し訳ありません」 「これだから使えないのよ」 「……」 すぐに魔法を解除し終わるビリー。 尤も、内部から拘束を解く事は難しいが、外部からの解除は非常に簡単だ。
/617ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7442人が本棚に入れています
本棚に追加