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こんな事を言っている所を見れば、敵が内外に多い事は明白だ。
只でさえ、貴族なのだ。
さまざまな所から、知らない内に恨みを買う事が多いというのに。
「それで、そいつは何か言って無かったかい?」
「何かって?」
「そうだな……組織とか、とにかく何かしらの発言をしなかったかい?」
「しなかったわ。なんにも言わずに突然私の腕をつかんだのよ」
「で、ひっぱったと」
「そう。その間になんにも言わずにね。不気味ったらありゃしないわ」
確かにその通りだ。
なにも言わず、顔も見えない状態で腕を引っ張られてみろ。
怖くて怖くて仕方ない。
余りに「正体不明」なため、溜息を吐くクロノに、ファイは自分の感じた事を報告する。
「父さん、あいつはかなりの手練れだ。上からの攻撃に反応してすぐに避けるなんて」
「お前の実力がまだまだだっただけなんじゃ無いのか?」
「んなっ、酷いぜ父さん」
「事実だから仕方ないのでは無くて?」
「エル様、貴方は黙っていて下さい」
「あらあら、怒られちゃいましたわね」
くすくすと笑うエル。随分と余裕を取り戻したらしい。
さっきまでだったら、すぐに噛みついて来ていたというのに。
「でも確かに随分と強い事は確かですわ。幾ら油断をしていたとは言っても、私の拘束魔法を打ち破って逃走するなんて」
「はっ、あんたが弱いだけじゃ無いの!」
「あらあら、私にすら勝てなかった貴女が一体何を言うのですか」
鼻で笑ったビーチェを拘束魔法で縛りつける。
先程と同様の魔法束縛。
いかに魔法陣を使用していない簡易的魔法だったとしても、この程度の小娘風情なら脱出する事は出来ない。
「ちょっと! 何をするのよ!」
突如として全身の自由を奪われたビーチェはエルに怒鳴りつける。
当然だ。誰だって縛られて喜ぶ人間はいない。
いや、いたか。マゾヒストという人種が。
「お嬢様!」ビリーは慌ててビーチェの拘束を解こうとする。
「早くしなさい! この役立たず!」
「申し訳ありません」
「これだから使えないのよ」
「……」
すぐに魔法を解除し終わるビリー。
尤も、内部から拘束を解く事は難しいが、外部からの解除は非常に簡単だ。
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