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なんと言うか言葉にできない感覚なのだ。
別に自分の事を恵まれていると自慢がしたい訳では無い。
只、こう、今まで続けて来た事とは正反対の事をさせられて、慣れないで戸惑う、とかそういう感覚に似ている。
其れに主人があれだから。
「良く分からんが苦労はしているんだな」
「人並みには、ね……」
肩をすくめてそう言う。人並みの生活を送っていたのが、唐突にこれだ。
人生塞翁が馬。
なにが起こるか分からない。
無駄に怠惰な生活を送る気はないが、かといって忙しくなるのも嫌いだ。
人生、平凡こそが一番!
だというのに……。
周囲を見回すと、護衛術を学ぶ使用人たち。それは未だいい。
未だいいとしよう。経験を詰むという事を、父親がさせているのだろう。
社会に出れば、この程度の事には普通に遭遇する。
「でも、熱血マンガみたいなノリは嫌だよなぁ……」
一人愚痴る。わずか半年が、もう何年にも感じる。
一人愚痴を言っても仕方ないので、休憩もそこそこに再び護衛術の練習に戻る。
例え児戯でも、やらないよりはましだ。体が鈍らない分には。
こうしてファイは今日も従者たちの中に溶け込んで行く。
その後授業は大きな問題も発生せずに、最後の時間割まで進んだ。
放課後を除けば、大体が平和な毎日だった。
相も変わらず、不審者は現れ続けていた為に、放課後は駆けまわる事が多かったものの、それ以外では平凡な日々そのものだった。
まさしくこれがファイの望んでいた日常だ。
死闘ばかりの日々なんて御免こうむる。
やはり、何よりも大きかったのは、あのエルが初日を除いて一切の問題を起こさなかった事だ。
あの人は本当に、ここに転校してしまえばいいのでは無いのか、と思うほどに。
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