うのうぇn。貴方は何の為に?

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煙にまぎれて男は姿を隠した。 どうやら退散するらしい。 深追いする事無くヴァンはその場にとどまる。 当然だ。この場を離れては誰が彼女達を護るというのだ。 この学校で唯一腕の立つ男が居なくては。 だが、ファイには関係ない。 一切の迷いを抱く事無く、煙の中へと踊りこみ、追撃する。 敵がどれほど強かろうと関係無い。 只、倒し、殺すだけ。 講堂の外に男は居た。 只、待っていたかの様に佇んでいた。 「一人だけか。あいつはおびき出せなかったか」 今まで一言として言葉を発さなかったそいつは、忌々しげに舌打ちをしてそう言った。 おびき出す? 一体どういう意味だろうか。 ファイが尋ねようととすると、背後の扉が魔法で閉じられた。 いや、閉じられたのでは無く、塞がれたという方が正しいだろう。 何せ、そこに扉は無くなっているのだから。只の壁となっている。 「……何が目的だ」 ファイは刀の鍔に指をかけて、そう言った。 鯉口を切り、僅かに覗いた刀身からは紅蓮の炎が溢れ出している。 「目的なんて、さっきも言ったじゃないか。ファイ」 「……俺の名前? なぜ知っている。お前は一体……」 どうやら油断のならない相手らしい。 先程の戦闘を見る限りでは、余程の実力を持っているに違いない。 それに有名な貴族の息子であったとしても、自分の名前を知っているなんておかしなことだ。 「ああ、そうか。君はまだ知らなかったね。僕の事を」 男はそう言ってフードに手をかけた。煩わしいフードをとるのだろう。 声に聞き覚えはあった。 そしてその声をたった今、思い出した。 「ビリー……!」 驚愕に目を見開くファイ。 それ以上の言葉が出ない。 何故君がとか、どうして、とか。そんな言葉は少し傾いた太陽が昇る空に消えた。 「何故って顔をしているねぇ。別に珍しい事じゃ無いだろ?」 苦笑するように犯人――ビリーはそう言った。 その表情は、普段の何かに脅えているような、弱々しいものでは無い。 「珍しい事じゃ無い……って、どういう事だ」 眉間に皺をよせて、ファイは尋ねる。 今は冷静にならなくては。
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