うのうぇn。貴方は何の為に?

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時間がゆっくりと流れる錯覚に陥る。 驚きのあまりに目を見開いて、自分の手を見てしまう。 ごとり、手が床に落ちる音が響き、次いで血液が地面に落ちる音が響いた。 エルの手を斬りおとした奴は、彼女が驚愕で動けない内にその場から飛び退いた。 無言でいる間にもどんどんと血液は流れ落ちて行き、紅い不透明な液体の水たまりを作っていく。 無くなった手を庇うように右手を当てるが、指と指の間から、血液は滴っている。 「大丈夫か!」ヴァンはエルに駆け寄ろうとするが、それを敵は許さない。 エルの腕が斬り落とされた直後に、いきなり剣を振るう速度が、力が大きくなった。 まるで、エルに近づけさせないようにするかのように。 「何時の間に……!」 苦痛に歪んだ表情でエルは問い尋ねる。 「これで奴は魔法陣を使えない! 一気にたたみかけるぞ!」 気勢が一気に上がる少年たち。 どうやら今までの戦闘スタイルは、完全にエル達を油断させるためのものだったらしい。 ヴァンが自分の教え子を、殺す事が出来ないと分かっていての行動だ。 彼らは教師としての、ヴァンの優しさという甘さに付け込んだのだ。 ヴァンは絶対に教え子を殺す真似だけはしない。彼は厳しいが、優しい事を熟知している。 流石は彼の生徒達。生半可な時間を共に過ごしてきてはいない。 相手を完全に理解しているからこそ、出来ることだ。 襲い来る敵を右手にある杖だけで、何とかさばいて行く。 だが、それでも左手を失った事は大きい。力が一切入らない。 両手と片手では全く力が違うのだ。 それに、相手の力も跳ね上がっている。 なんの冗談かと思うほどに。いや、これは学生の強さじゃ無い。 筋力も先程の倍、素早さ、魔力、どれをとっても学生の域を超している。
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