うのうぇn。貴方は何の為に?

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冷やかな言葉が響く。 これだけの人が居るというのに、しんと静まり返っているのは、非常に気味が悪い。 皆、呼吸も忘れたかのように、エルの姿に見入っているのだ。 その静寂を破るのは、男の声。 「強がっていられるのも今の内だ! こいつを喰らいやがれ、糞ビッチ!」 適当なページをめくり、そこに魔力を流す。 すると巨大な風の槍が構築された。どうやら引き当てたのは、ウィンドソードの魔法陣らしい。 しかもサイズは任意で変更が出来る代物のようだ。天井の一部が切れている。推定、三メートル以上。 流石にそのサイズには、ヴァンも唖然とする。 「おいおい……あんなもん、どうやって防ぐんだよ!」 引き攣ったままの表情で、愚痴る彼とは対照的にエルは鼻で笑った。 「児戯もいいとこね。そんな程度で強くなった心算で……ほんと、気色悪いを通り越して可愛らしいわ」 「ほざけ糞女ぁぁぁぁ!」 その風の剣をエル目がけて、振り下ろす。 避けようと思えば避ける事は簡単な事だ。誰だって避ける事は出来ただろう。 しかし彼女はそこに立ったまま。 その場から動こうとはしない。 「危ない!」 見かねたヴァンが彼女の前に飛び出して、大剣を盾のように構える。 「邪魔よ。どきなさい」 だが、まるで人形でも掴むかのように、ヴァンの襟首を掴むと、そのまま放り投げる。 そのか細い腕からは想像できない程の腕力だ。 真正面から受け止める気なのだ。 頭上に迫る風の刃。その迫力たるや、まるで巨人がその刃を振り下ろそうとしているかの様。 並大抵の人なら間違いなく耐える事は出来ないだろう。 それだけ魔法陣というものは強力だ。そこらの魔法と比べるのが馬鹿馬鹿しくなるほどに。 真正面。直撃はもう避けられない。
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