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まともな奴が出来ることじゃ無い。
そもそも、戦闘中に敵と会話だなんて。
そんな事をするのに、何の意味があるというのだ。
微塵の意味もない筈だ。
殺し合いをしている。互いの命を奪おうとしている。
そんな中で互いが会話をする事なんて、不毛以外の何物でもない。
「俺は愛が欲しいから戦っている!」
「そんな子供みたいな道理が!」
「無理が通れば道理なんて!」
火花が飛び散り、ファイの非装甲部分、つまり関節部分の服を切り裂く。
ファイの刀はビリーの右わきをかすめる。
互いに一手たりとも妥協をしていない。
ビリーの戦術は、中距離と近距離を巧みに変化させながら、相手の隙を作り出すもの。
ファイの戦術は、接近して隙を見つけて攻撃をするもの。
互いに戦いづらい戦術である。
遠ざかり隙を作ろうと思えば近寄られ、隙を窺いながら接近したと思えば、すぐに距離をとられる。
近距離で、しのぎを削る事もあるが僅かな時間だけだ。
ファイの体力もそろそろ限界に近付いてきている。
ここは早めに決めたいものだ。
だが、その焦りが隙を生み出した。
焦って動きが非常に単調で、大ぶりなものに変わるその時に、ビリーはファイの懐に潜り込み、手首を蹴りあげる。
そして、そのまま回転して、かかとでファイの頭を殴ってやった。
これには堪らず、ファイの体が吹き飛んでしまう。
刀は主の手を離れ、床に刺さる。
ファイの体は受け身を取る事も出来ないままに、転がった。炎の鎧を身に纏っている所為か、途端に周囲に火の手が上がる。
いや、もう既に大火事なので、ついていなかった所に火がついただけなのだが。
かなりのダメージを負ったらしく、そう簡単には動けない。
脳震盪でも起こしたのだろう。
意識はあるものの、体が思うように動かない。
「所詮、君の力なんてその程度なんだ。俺の前には……及ばない」
愛を欲する力の前には、ただの力なんて。
ビリーは必死に刀に、手を伸ばそうとしている紅蓮の騎士を見下ろしながら、そう呟いた。
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