7442人が本棚に入れています
本棚に追加
荒い呼吸で左手の拳銃をファイに向ける。
リアサイトとフロントサイトを合わせて着実に、ファイの命を止めようとする。
引き金を引く指に力を入れ、そして放つ。
その銃弾は一直線にファイへと吸い込まれて行く。
遮蔽物は無い。ただ、無慈悲に吸い込まれて行くだけだ。
銃弾は、ファイに届くことはなかった。
「……また、邪魔をするのか」
ビリーは言う。憎々しげに。でも寂しげに。
「……ええ。邪魔、させて貰うわ」
瞳をまっすぐに向けたまま、一人の少年が愛した魔女はそういった。
もう、迷わない。決めた。
彼女は自分自身で考えて選択した。
それしか出来ないと分かっていたから。
当然、それを拒否する事も出来た。それとは違う選択肢を選ぶ事も出来た。
だが、例えそれを選択しても、彼が戦闘を止めてくれる可能性はゼロに等しい。
自己完結だ。実におかしい。
試してもいないのに、結論をはじきだすのは稚拙すぎる。
大人びた発想と同時に、幼さを感じさせる単純さ。
大切なものを捨てる覚悟、とよく言うが、それを選択できるだけの精神力も大したものだ。
それで平常心を保てるのだから、尚凄い。
「あはは……そりゃそうだよね。僕のものにはなりたくないよね。君は何時も僕の事を馬鹿にしていたから。僕はいつも君の事だけを想っていたのに。君の事だけを考えて、行動していたのに」
狂った笑いを浮かべる。まともな精神状態じゃ無い。
いや、人をなんの躊躇もなく殺せる人物の精神状態も、あまりまともとは言い難いが。
自責の念にかられる事だってある。忘れていたのに、ふと思い出す事だって。
「貴方はそう、思っていたのね。ビリー」
寂しそうに瞳を下げる。
瞳を下げる事しか出来ない。ただ、瞳を下げて、そうするしか出来ない。
普段から猫をかぶっていた彼女も、今ばかりは自分の感情を抑えきれない。
「ごめんなさい。私の所為で」
「今更謝ってどうなるってんだ!」
最初のコメントを投稿しよう!