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ビリーはそう叫ぶ。憎しみが憤怒が、魔力となって彼の体から溢れ出す。
そう、今更何だ?
本当に今更じゃないか。
彼の言葉で、ビーチェの瞳が下がっていく。眉根には皺が寄っている。
今、自分の感情を押し殺してしまったら、私は人間ではなくなる。
そう感じているから。
只ひたすらに、今は自分であり続ける事こそ、彼女が出来る唯一の事だ。
そして、彼女が貴族としての誇りを忘れない為にも。
正直で在る。それが、彼女に出来る唯一の事だ。
「私が、自分自身とちゃんと向き合っていれば、貴方にこんな事をさせたりはしなかった」
「そうだ! あんたがせめて、俺を置いていてくれれば……!」
「想いは言葉にしなければ伝わらないって、本当ね。もう、遅いの。総て何もかも。でも、言わせて。これだけ、私は――――」
瞳を閉じて彼女は息を吸う。
声が震えていたのが、わかる。恐れていた言葉を、口にしてはならない言葉を口にする。
そして、せめてこの言葉を発するのが早ければと、悔やむ。
「貴方の事が、好きだったわ」
言うと同時に彼女の瞳から涙が流れた。
炎の中にきらめく彼女の涙は、頬を伝い、床に落ちる。
その時間が、涅槃寂静だったのか、それとも那由他にも勝るほどの時間だったのか。
それは分からない。
ただ、今の彼女の潤んだ瞳には、驚き戸惑うビリーが歪んで映るだけだ。
「な、なんだよ……今更、そんなこと!」
「そう、本当に今更。もう遅い。でも、私は貴方の事が好きだった」
その事実だけは変わらない。
「嘘だ……! 嘘だ嘘だ嘘だ! そんな嘘で僕を惑わせようとするなぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっッッ!」
頭を大きく左右に振りながら叫ぶ。否定したい。だが、望んでいた言葉だ。
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