うのうぇn。貴方は何の為に?

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一度でも切れ目が入ってしまえば、後は簡単に切れてしまう。 面白いほどに、簡単に。 獣じみた咆哮が響き渡り、魔砲はそれを発生していた銃ごと切り裂かれた。 それは同時にこの戦いの決着をも意味する。 自分の必殺技が、こうもあっさりと打ち破られたことに、驚愕する暇もなく、ビリーの目の前にはファイが肉薄していた。 防御反応する暇もない。 「……終わりだ」 その言葉は誰が発したものかは分からない。 だが、確かにビリーの耳には聞こえてきた。 その言葉の後に、腹部に異物感。 次いで焼けるような激痛。 ファイの刀がビリーの腹部を貫通したのだ。 「が……あ――」 声にならない悲鳴を上げて、口から血を吐く。 それを体で浴びるファイ。炎で作られた鎧の所為で非常に嫌な臭いが立ち込める。 頬に触れた血があっという間に乾燥する。 「き……みは、一体……誰なんだ……な……の為に……」 「俺は、俺だ。何処の誰でもない。俺の為だけだ」 「う……や……し――――」 その言葉を言うと同時に、恋に狂った少年の体から、力が抜けた。 瞼は開いたまま、瞳からは光が失われている。 ずるり、と。 彼の体が、刀から滑り落ちる。 マリオネットを失った操り人形はただ、力無くそこに落ちるだけだ。 腹部の傷は熱によって焼けていないため、血があふれ出して、紅い水溜りを作る。 二度と動かなくなった愛しい人を抱きかかえる為に、ビーチェは覚束ない足取りで近寄る。 「ビリー……ごめんなさい……ごめんなさい……」 彼の頭を膝に乗せて、森の魔女は泣く。 大粒の涙が、頬を伝いビリーの頬に落ちる。 ああ、本当ならこうしたかった。 自身の唇を、ビリーの唇に、重ねる。 愛しい人との初めてのキスは――血と、涙と、深い後悔の味がした。 せめて、こうする事がもう少し早ければ。 運命は違ったのかもしれない。
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