小さな小さな子犬ちゃん

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後は味噌汁にきざみねぎを入れて、終わりだ。 具は何故豆腐だけか? 必要ないからだ。 二つの器をテーブルに運ぶと、お箸と緑茶を準備した。 「いただきま……」 彼が満面の笑みでそう言おうとしたときだった。 「よう、ファイ」 最悪にして最凶の男が出現しやがった。 なんという絶妙のタイミング。きっと狙い済まして来たに違いない。非常に腹立たしい。 本当に殺してやろうか。 手を切り落とす程度では終わらせないぞ。 「なんだ。丁度、食事時だったのか」 崩天のルシフェルは意外そうな顔つきでそういう。 「しかも、海鮮親子丼か。豪勢だねぇ」 「あげませんよ? あげませんから。あげませんからね!」 ファイはそういいながら、海鮮丼をリオンから遠ざける。 これは彼の大好物なのだ。 誰にやるものか。しかも旬の鮭のメスとなると、かなりの値が張る代物だったのだ。 一人暮らしのファイではかなり奮発したほうだ。 それに、こちら側にはめったに流れてこない純正品だ。 腹に卵が詰まったままだなんて。 「別に盗ったりはしないよ。鮭を取る事がつまりどういう事かくらいは理解しているからな」 苦笑とも取れない笑みを浮かべるとリオンは言った。 娘の鮭を横取りして、本当に殺されかけたことがあるのだ。 というか、リオンで無ければ確実に死んでいた。 どんな事をされたかといわれると、単にクロノがリオンにした事よりも酷かった、と表現すればわかり易いだろう。 なお、クロノはリオンに対して、腹を掻っ捌くなどの事をしている。 そんな思い出があるので、絶対に手を出したくは無い。 尤も、親にするようなことじゃないが。 本当に食い物の恨みは恐ろしい。 「それなら良いのですが。ところで何か御用で」 ファイは言いながら器を持ち、豪快に口の中へ流し込む。 「ああ、お前におすそ分け。沢山貰ったからな」 そういいながら、リオンはでかい鮭をテーブルの上に置いた。 それを見た瞬間に、ファイの目の色が変わる。 「こ、これは塩鮭じゃないですか!」 「ああ、結構な数を貰ったんでな。お前が好きだったのを覚えていたからな。んで、晩飯にでも、とおもって持ってきたんだが、一足遅かったらしい」 どんぶりを片手に、次々とご飯と鮭とイクラを口の中に流し込んでいくファイを見ながら苦笑するリオン。というか、苦笑いしか出てこない。 本当に好きなんだとよくわかる行動だ。
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