小さな小さな子犬ちゃん

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普段のヘルは異常なまでの美人だ。スタイル抜群、顔も悪くないし、髪もきれいで肌は艶やか。 これで欲情しない男がいたとしたら見てみたいものだ。 だが、寝るときは猫だ。 襲うと言った所で、どうやって襲えば良いのやら。 そもそも、起きているときに襲おうものなら、間違いなくぼこぼこにされる。 腕や足の一本が切り落とされるのは当たり前だ。怖くて襲えるわけがない。そもそも、死神なのに。 「お前、まさか起きているときに狙う気か? 殺されるぞ」 やたらとまじめになってそう言うリオン。 多分、一度ちょっかいをかけたことがあったのだろうか。 そのときにやられたに違いない。色々と。これでも男だ。 「わかったよ、わかりました! 俺が預かれば良いんだろ」 やけくそ気味に肯定するワルキ。 逃げ道がなくなった以上、するしかないのだ。 最後の綱は本当にヘルだったのだが。 「うんうん。諦めが良い奴は大好きだ。安心しろ。後で差し入れを持って行ってやるから」 「その差し入れとやらに不安しか覚えないのだが」 「安心しろ。只の塩鮭だ」 「その只のっていうフレーズが嫌に気に掛かるんだが」 「何だよ信用してないのか」 「お前は胡散臭い」 「胡散臭くなくてあの人の弟子はやってられん」 「崩天も胡散臭いのか」 目の前にいるだろう。 「ああ、胡散臭いッたらありゃしない。正体不明なんて胡散臭い以外に何があるってんだ」 「……そこがカッコいいんじゃないか」 「おいおい、何処の誰だか得体の知れん奴だぜ?」 「いやまぁ、それでも恩人であるという事には変わりないし」 「良い奴らだなぁ、さぞかしお師匠様も喜んでるだろ。ま、あの人の事だから牙を向いたら殺しに掛かってるだろうが」 からからと笑って言う。 本人が真面目にそんな事を言うな、と言いたかったが流石に無理なファイだった。 「因みにあの人が怒ったら怖いのか?」 「怖い怖い。とぉっても怖いぜ。人を人だと思ってないしな」 「……敵に回したくはないよなぁ」 「あの人にとっての敵ってのは自分の領域を犯す奴だ」 リオンはそういうと、立ち上がる。
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