小さな小さな子犬ちゃん

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可哀想に。 実に哀れだ。 周囲の生徒たちは、せめてもの情けに十字を切り、経を黙読するのであった。 「何をぐずぐずしている?」 がたがたと二人の動きがシンクロしている。プログラミングされたゲームでもあるまいに。 「さっさと走ってこんかこの蛆虫共がアァァァァァアアァァッッッッッッッッ!」 担任の咆哮で二人の髪が一気に逆立った。 凄まじい音圧だ。ガラスにひびが入っていないかが実に心配だ。 周囲の生徒たちは既に耳を塞いで防御していた。 防御していない生徒は、きっと頭の中が揺れているに違いない。 そんな咆哮を間近で受けた二人は、すぐさま教室を飛び出してグラウンドへ向かうのであった。 担任にだけは逆らってはいけない。 これはこのクラスでの……いや、この学年での暗黙の了解なのである。 自殺願望者位だろう。彼女に喧嘩を売る奴がいるのだとしたら。 いや、他にもいた。 変態だ。 「畜生……踏んだり蹴ったりだ」 ワルキは運動場を走りながら一人愚痴をもらす。愚痴しか、出るものが無い。 「はっはっはっは! ざまぁみろ!」 真横を走りながらワルキをののしるファイ。 普段はこんな役回りは彼が負われるべきなのだ。 今回の不幸はワルキにも降りかかっているらしい。 実に素晴らしいことだ。 「うぜぇ! 畜生、何だって俺はこんな目にあわなきゃならないんだ!」 「そりゃ、当然リオン様と深く関わったからだろ?」 「くそう……今まで割と普通だったのに。厄介なことにはあんまり巻き込まれなかったのに」 「これからは用心するんだな。あの人は歩くトラブルメーカーだから」 今更なことだが、一応釘を打っておく。 どちらかと言えば勝手にトラブルが舞い込んでくると言ったほうが正しいのだが。
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