国を統べるには

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敵の数が判断できない以上、正しいと言える。 が、判断が早すぎた。 「大丈夫?」 敵が全員撤退したのと同時に、一人の少女が姿を見せる。 彼女はワルキと同じ、ユーレリウル学園の制服を身にまとっていた。 「ピアナ……」 複数人いると思わせておいて、実は一人だったのだ。 殺さずに一人を射抜いた事が、良かったのだろう。 丁度良い警告になったのだ。何時でもお前たちを殺せるぞ、と言う。 「何で……ここに」 「貴方が突然飛び出していったから、ね。ファイ様も向かってきていますわ」 彼女はそう言いながら、ワルキに近づく。 「ワルキさん!」顔面蒼白のジェンも、ワルキに近づく。「死なないで下さい!」 縁起でもない。 「おいおい……こいつはただの痺れ薬だぞ……」 あきれた風に、ワルキはそういう。頭を撫でてやりたいが、力が入らない。 「小僧!」 背後からヘルが文字通り飛んできた。 「お邪魔、だったかな」 ふふ、と不敵に笑ってそういうヘル。 こんな状況で冗談を吐く事が出来る彼女の性格は歪んでいる、とワルキは思う。 それを考える事が出来る彼も、まだまだ大丈夫だと言うことだ。 「ともかく、ここは引き上げた方が良いな」ヘルはそういうと、ワルキの体を軽々と持ち上げる。 女性に持ち上げられると言うのも、何か屈辱だが、今はそんな下らない感傷に浸りたい気分だ。 「娘、貴様も早く学校へ戻れ。無断で出てきたのだろう? あまり騒ぎを大きくしてはならん」 「でも……!」 「ファイはともかく、貴様のような『いわく』の付いてない生徒が授業を抜け出すのは拙い」 「……だけど、それでも放っては」 ジェンの方を見て、彼女は逡巡する。その幼い手はワルキの服を掴んでいる。 「言っておくが、これはジェンの為でもあるのだぞ」 「どういうこと」 「ジェンは獣人だ。この国に獣人はいないといって良い。だとしたら何処から入ってきたのかが問題になる」 「不法入国者、になるのね」 「そうだ。それに今の連中も獣人だった。となれば、何らかの騒動を抱えている事は明らかだ」 「……そうね。私は戻る」 「賢明な判断だ。あと、カレナにも言っておけ。ファイと一緒、なんて戯れた事は言わさせるな」
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