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リオンはそう口にすると、もう一度ワインを口へ運ぶ。
「しかし、いつ来てもここの質は落ちないな」
「あなたここによく来るの?」
「一年に一度くらいだがな」
一年に一度、それがどれほど難しい事か、本当に分かっていない。
一年に一度来れるなんて事は、基本的にありえない。
と言うよりも財が少ない平民の身分では、こんな高級料理店に入る事すらない。
先程の名前から推測するに、彼は平民。
どう考えても、こんな店に通える訳がない。
「君は何処の貴族?」
「貴族じゃ無いな……強いて言うなら王族、か。まぁ、この国ともこの世界とも関係の無くなった国のだけれども」
かつて滅びた自身の王国の事を皮肉って、リオンはそう言ってやる。
「王族、ね。信じても良いわ」
「あらあら、案外迷信深いのかい」
「別に。神様なんて興味はないわ」
「運命を司る女神の名前を持っているのにな」
「ええ、矛盾しているわね」
自称王族の言葉を否定する事も無く、彼女はそう言った。
「ま、お前さんが何を信じようが俺の知った事じゃないがな。それよりも、他に何を命じられてきた?」
「それだけよ。貴方の監視をして、それをレポートに纏めて報告」
「それだけにお前を使うのもおかしな話だ」
たかが一介の、しかも落ちこぼれの高校生を監視するのに、何をわざわざギルドランクSの人物を使う必要性があるのだろうか。
「ええ、私も疑問に思っていたわ。たかが高校生の、しかもあの学校始まって以来の落ちこぼれを、何故私が監視しないといけないのか、って」
「思って、いた?」
「実際に今日、貴方に会って考えが変わったわ。貴方一体何を企んでいるのかしら」
「企んでいるとは酷いな。普通に高校生活を楽しんでいるだけなのだがな」
わざと力を隠しているのも、楽しい高校生活の一端でしか無い。
そうした方が面白い、と言う方にしか彼は動かない。
面白くなければ、動かない。
それが彼の信条だ。
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