国を統べるには

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そうして彼女が笑ったその刹那、扉が開かれた。 「…………」 言葉を発さずに、ただ無言で扉から歩を進めて現れたのは、黒いローブを身に纏い顔を隠した男だった。 彼の姿に少年達は肌があわ立つのを感じた。 ただ一歩進んだだけなのに、呼吸が出来ない。 凄まじいまでの存在感、威圧感。見るものを圧倒するだけの覇気。一度見てしまったら、もう二度と視線が外せない。 黒い、天使。 そんな彼がジェンの前まで進むと、突然跪いた。 「お迎えに上がりました。アルカリエ国、王子。ジャリア・アルカ・ジェシー・ディー・ノレヴ・ジェサイア様」 その言葉に顔を蒼白にして、陸にあげられた魚のように、口をパクパクさせるジェン。 まるで、何故その事を……といっているかのようだ。 ジェンがひたすらに隠してきた事、それは彼が隣国の王子様であると言う事だ。 しかも、生命を狙われている所を見ると、かなり重大な事態になっていると見たほうが正しい。 「……ま、待て。待ってくれ。あんたは本当に崩天のルシフェル様なのか?」 「様、なんてつけんで良い。少年。ここには立派な生き証人がいるじゃないか」 崩天はそういうと、ファイのほうを見る。 確かに、彼の弟子であるファイならば見抜く事はたやすいだろう。 「……本人だよ。間違いなく」 溜息を吐くように彼はいった。また厄介な事になった、そう言わんばかりの溜息だった。 「そして、このお方が隣国の王子様であるというのも、事実だ」 「申し訳ない、少し状況を整理させて頂きたい。ジェンが、隣国の王子様?」 驚愕の表情を貼り付けたまま、ワルキは崩天に尋ねた。 「その通りだ。これは調査済みの事であり、裏づけも取れている」 「お迎えと、王宮とは?」 「このようなお方をこんな薄汚れた部屋にお泊めになる訳に行かないだろう。当然、王宮に部屋を用意してもらっている」 薄汚い部屋で悪かったな、と内心そういってやる。
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