国を統べるには

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何者か尋ねなかった、ということは既にジェンにとっては人殺しという事で認識されてるのだろう。 崩天の話し方が変わったのは、彼自身が公私を分けているのだろう。 どうせ、ピアナが来るまでは仕事ではない、とでも行って。 「おじさんの噂は聞いたことがある」 「そうかい。そりゃそうだろうね」 「……私達の敵」 「おいおい、そいつは間違っている。俺は別にこの国の味方って訳じゃない」 会話のずれ。それを理解できないワルキは、何故崩天がそんなことを言ったのか、理解できない。 「……楽しいの?」 「本当におかしな事を聞くな。途中までは楽しかった」 「…………」 「だがな、飽きってモンもある訳だ。何千、何万と殺していくうちに飽きが来ちまう。後はただの地獄だったね。阿鼻叫喚の地獄絵巻とはよく言ったもんだ」 肩をすくめて言う。周りはまさに血の海。生きている者などなく、ただ、そこに立ち尽くすだけの男。 転がっているのは魂の抜けた人形。 腕が切り落とされたものやひしゃげたもの、曲がったもの、引きちぎられたもの、様々だ。 腕だけでもこれだ。 四肢全ての状態を語り始めたら、どうなることやら。 「それに、十五年前は別に楽しみでやっていた訳じゃない。何百年か前は、楽しみでやってがね」 肌が粟立つ。何百年前? どういう事なんだ? 「まぁ、結局何が言いたいかって聞かれたらな。もう、覚えてねぇってこった」 ヒュン、何かが空を切る音がしたと思った次の瞬間に、自分の真横をナイフが突き抜けたことを知る。 不敵な笑み。 それだけで十分だった。 類稀なる残虐さ、それを備えているのが崩天のルシフェルであると認識させるには。
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