訪れる未来の女神

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「本当に、意味が分からない人」 クルドはリオンに対してそうコメントする。 「ほっとけ」またも苦笑しながらリオンは言った。 それからしばらくは大した会話も無く、静かな時間が進んでいった。 折角来たのだ。 ファイ達も絶品たる料理に舌鼓を打ちながら、崩天のルシフェルと未来の女神の話を聞いていた。 後は退屈な話ばかり。 ただ、カレナだけは興味津々に二人の会話を聞いていたが。 デザートが運ばれてきて、もうじきに帰る頃になった。 「……お前はこれからどうするつもりなんだ?」 柔らかな甘みがするそれを口に運びながら、リオンは女神に尋ねる。 「……このままもうしばらく学校に居させてもらうわ」 少し逡巡した風に見て取れるが、そう言うクルドにリオンは笑いかける。 「それがいいさ。お前は青春を謳歌するといいさ。未だ、取り返しがつく時間だろう」 「貴方はもう手遅れだというの? 私よりも年下だというのに」 それを聞いて、リオンは目を驚いた風に見広げた。 当然だ。現在の彼は、十六の子供。 二十歳をとうに過ぎているクルドとくらべると、いくらも若い。 ワインを飲んでいるという事で、自身の年齢を完全に忘れていた。 「ああ、そうだったな。今の俺は、お前よりも若いんだったな」 そう呟くと、自嘲する。 「だが、もう取り返しのつかない時間と言うのは、俺にはあるんだ。お前に出来て、俺に出来ない事がな」 また、ワインを口へ運ぶ。 「私に、出来て貴方にできない事?」 眉をひそめてクルドは尋ね返す。 その瞳に映るのは、少し憂いを秘めた少年の顔。 彼の表情から、何を考えているのか、クルドには理解できない。 いや、理解出来る訳が無い。 何せ、彼が想う場所に、こんな代物は無い。
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