突破

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リオンはおどけてそういう。 「そんな風には見えんな。リオンとかいったか? お前は随分と強いように見えるが」 「冗談。俺の資料を見たのかよ。俺は赤点ギリギリだぜ?」 「逆を取れば赤点を取ってない。しかもぎりぎりで、何一つの教科も」 「いやぁ、先生方の温情によって生きていられて幸せでさぁ」 頬を紅潮させてリオンは照れた風に言う。 「はっはっはっは! こいつは面白い! どんな子供かと思ったら、存外大物みたいだな!」 大きな口を大きく開けて豪快に大尉は笑った。 目の前にいるこのリオンというこの少年、本当に食えない所を持っている。 見た目では飄々とした只の馬鹿にしか見えないだろうが、一皮向けば十分な素質を持っている。 きっと、先程の会話が無ければ大尉ですら化かされていたに違いない。 いや、ここで自分の事を若干ひけらかすのも彼の策略か、とすら思いたくなる。 リオン本人にはそこまで他意はないのだろうが、ついつい疑いたくなってしまう。 全く、とんでもない狸だ。 腹の中はきっと真っ黒に染まっているのだろう。 まぁ、ワルキたちにとっては理解に苦しむような、そんな感覚の問題である。 「大尉、少々お戯れが過ぎますぞ」 「良いではないか准尉。この少年が面白いのは事実なのだぞ?」 横から口を挟んだのは、テンペニー准尉だ。 「確かに肝っ玉が据わっているとは思いますが……」 「だろう? 我が隊にも一人は欲しいものだ」 冗談か本気か、ブラックマン大尉はそんなことをいう。 「ご冗談を。こんな子供は無駄死にするだけです」 「そうか? 訓練によっては化けると思うが」 半ば本気でリオンのことを見ているらしい。 こんな人間は初めてだ。リオンの事を評価する人間なんて。 大体、普通にしていれば良いものを、わざわざ弱く見せたりしたり強く見せたりするから、こんな事になったりするのだ。 「ともかく、王子を輸送する手段を決めなければ成りませんよ」 喉を鳴らし、話を本来の目的に戻す准尉。 「何、お前の事だ。既に計画は立っているのだろう?」 「……全く。貴方という人は……」
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