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それどころか、今の科学技術なんて存在しない。
車だって、古い。テレビは白黒。オーディオだって、レコードが主流の時代だ。当然、カセットテープなんて代物も無い。
ここ五百年で、技術は進歩した。
車はより速く走れるようになった。テレビには色がついて、音楽は手軽に持ち運べる時代になった。
その代償として、空を、大地の色を失ってしまったが。
柔らかな焦げ茶の土は、灰色の土に覆われて、空を埋め尽くすのはビルの類。
鳥と一緒に巨大な機械が飛び、車からは蒼を鈍く覆う黒が出ている。
時代は変わったものだ、とつくづく思う。
今も昔も変わらないのは、子供の笑い声くらいか。
自分も学生として、友人と一緒に走り回っていたのか、と不意に思うのだ。
今とは異なる時間の流れで。
「ふふ、お前もいずれ解るさ」
肩を竦めて微笑む。
もう戻りはしないのだ。
もう、あの時に戻る事は出来ないのだ。
だから――。
ああ、そうか。
リオンはようやく合点がいった。
あいつらは、これを教える為に彼女をここに送り込んで来たのだ。
全ては「未来」の意味を知る為に。
「さて、そろそろ行こうか」
リオンはそう言うと、立ち上がる。
クルドもそれに応じて、立ち上がる。
またここでも、驚くべき事象が起きた。
なんと会計を現金で済ませたのだ。
持っていた、無料チケットを使わずにだ。
それを聞いた、ファイを除く四人が驚いたのは言うまでもない事だろう。
何せ、ここの料理は、一介の学生風情には払えない値段だ。
それをリオンは、キャッシュで払ってしまった。
驚く事この上ない。
リオンにそれだけの財力がある事くらい知っていたファイは、驚きこそしなかったが、呆れ果てた。
どうせ、クルドの前だから恰好をつけたかったのだろう。
そう思っていたのだが、とうの本人はそんなつもりではない。
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