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そんなみょうちくりんな会話が飛び交う中、ワルキはただ黙って俯いているだけだった。
これから向かう実践の場に緊張が隠せないのだろう。
彼は平凡だ。実に平凡だ。
命を賭けた事なんて、一度も無かっただろう。死にそうになったのは、一学期に一度だけ。
しかもあの時はモンスターを相手にしていた為、敵を倒せばそれでよかった。
幾ら相手が強かろうと、生き残る自信があったのだ。
だが、今回は違う。
自分が生き残る事とは違う。
誰かを護る為にその拳を振るうのだ。
自分が死ぬ程度なら構わない。別に誰にも迷惑はかからないから。母親には迷惑をかけてしまうかもしれないが。
きっとファイ達も、特にピアナも同じ事を考えているに違いない。
だが、今度は違う。
傍らに座っている小さな王子様を、護らなければならない。
誰かを護るための戦い。
そのプレッシャーが、ワルキの肩に大きくのしかかっている。
兵の中の数人は既に夜の為に目を閉じ睡眠をとり始めている人間もいる。
場慣れしている人間がこれ程妬ましいと思った事なんて一度もなかったが……。
今回ばかりはそうはいえないワルキであった。
そんな下らない、まったく関係の無い事を考えていても仕方ない。
ワルキは欠伸ひとつすると、目を閉じて眠るように心がける。
隣にある二つのぬくもりが、彼に僅かな余裕を与えてくれるのだ。
それぞれに想いを抱えたまま、車は道を往く。
車に揺られること数時間。
目的の場所から数百メートル離れた場所に車は止まり、其処から歩きとなった。
既に辺りは暗く、空には星が輝き、月明かりが照らしている。今日は待宵だろうか、それとも十六夜だろうか。
そんな中、車を降りたメンバーは、隊列を崩さずにただ黙って進んでいた。
この中で最も身長の低いジェンは、ワルキに背負われて移動している。
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