突破

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使うのだとすればあくまでも趣味。 狩猟だとか射撃だとか、そういったものを趣味とする人間が使う程度だろう。 どうやら、自分の見かけも、ブラックマン大尉の目測も間違っていたらしい。 この少年は既に『完成』している。 人間としてではなく、一人の兵士として。 いいや、そんな形容ではない。 むしろ戦士、といったほうがいいのかも知れない。 そんな疑念と確信を抱きながら、ワルキの傷が癒えるのをゆっくりと見つめていたテンペニー准尉であった。 「ほら、こいつで大丈夫だろ」 光が収まるとリオンは手を放した。 其処にあるのは血液だけで、既に傷は塞がっている。 痛みもなければ出血もない。ただ、体には妙な気だるさが残っている。 「血を拭いておけ。それと、回復魔法の副作用で、体に気だるさが残るだろうがそいつは仕方のない事だ。無理をするな。死なれちゃ困る」 手に付いた血液を払いながらリオンはそう言った。回復魔法は肉体にも負担を与えることになる。 だからこそ、ワルキに無理をしてもらっては困る。 幾ら治癒魔法を使ったところで、死ぬときは死ぬのだから。 「お前が心配するなんて珍しいな」 口元に笑みを浮かべてワルキは言う。どうやら、少し嬉しかったらしい。 気持ち悪い。 「全員生き残る、って言ってしまった手前、お前に死なれちゃ困るんでね。普段だったら棄てていく」 「ひでぇ! 何だよそれ!」 「それが戦争って奴だ。他人に構っていたら、自分が死んじまう」 「ぐ……俺が未熟だってのか」 「殻も破れてねぇ餓鬼がよく言う。未熟どころか、生のまんまだつぅの。言われたくなきゃ、もうちょっとは強くなるんだな」 欠伸をしながらリオンは言った。緊張感のかけらもないらしい。 本当に大物だ。 「……リオン君、君は一体何者だい?」 「なんだい准尉、藪から棒に。資料渡した筈ですよ。あれのまんまッス」 テンペニー准尉の言葉を煙に巻くと、「それじゃあ行きますか」一人集合場所へと戻っていくリオンであった。
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