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顔も判別できないほどだったのだから。
うぅ、気持ち悪い。
「まったく、あのくらいで音を上げていたら、これから先どうなることやら。戦争が起きたら、拷問とか普通にやるんだからな」
「……ああ、もう、貴方が拷問をするといった時点で色々と想像したくないですよ」
きっとこの人の事だから身体的な拷問は勿論、性的、精神的なものまでやるんだろうな、とファイは想像する。
きっと一家虐殺とか、そいつの子供を目の前で殺したりとか、犯したりとか、色々するんだろうなぁ。
「はっはっは、じきに当たり前になるさ。色々と」
「なりたくないです!」
きっぱりと言い切るファイ。何処となく赤いのは、少しばかりエロい事を考えていた所為か。
男ってのはどうしてもこういう発想が好きなんだろうね。
「心配するな。本当に慣れる。否が応でも」
慣れる、普段なら笑って返すようなそんな言葉も、今のファイにはどうしても重く、のしかかる。
「っと、こんな所で油とか売っているわけにもいかんな」
リオンはそう言うと、大尉に目で合図を出す。
「よし、それでは移動を開始する。目的地までは歩くことになるが、各員周辺警戒を怠らないように」
その一声で、ワルキとリオンを除く全員の表情が引き締まる。
相変わらず、ワルキは泣きついているジェンを宥めるのに必死だ。
こんなに自分の事を慕う年下なんて今までいなかったから、どう扱っていいものか悩んでいるのだろう。
特にそれが小さな子供となればなおさらだ。
子育てどころか、弟も見たことがない彼にとっては少しつらいところだろう。
ともかく、そんなワルキもピアナに助けられながら、何とか隊列に加わり進行する。
ひたすらにしんどい。
内部協力者に、なんとしてでも接触しなくては。
関所さえ抜けてしまえば後は内部協力者に接触し、首都まで運んでもらえれば十分だ。
そこから先は自分達でどうにかしてみせる。
具体的な案なんてない。
悪であるということを証明する手段だってない。
隣国の使者の言葉なんてこの国の人間が聞き入れるわけもない。
だが、此方には切り札が存在している。
ジェンという切り札が。
足りない月が道なき道を照らす。
やがて一つの小さな舗装されていない砂利道に出る。
辺りは真っ暗で、誰も近寄らないような場所。
そこに一つだけエンジン音が響き渡っていた。
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