突破

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どうやら、協力者らしい。 こんなところに一つだけエンジン音を響かせているとなると、他にいない。 ブラックマン大尉が、接触しそれを確かめた後、全員に指示を出す。 「乗り込め」と、短く一言。 それに従い次々と車の中に乗り込んでいく。 ワルキはジェンを背負ったまま。ここに来るまでに疲れて眠ってしまったらしい。 まぁ、泣きつかれたのもあるだろうが、何より心労が原因だろう。 思っているよりも気負っているような感じもしたし。 車に乗った後からは、ピアナがジェンを抱き上げていた。 ワルキではどうすれば良いのか、分からなかったから彼女に助力を求めたのだ。 成程、積極的になったものだ。 ついこの間までは、声をかけるのにも逡巡していたのに。 まぁ、そんな事はともかく。 合流地点から市街地まで数時間。 その間、少しでも疲れた心身を癒すために、休息をとるのであった。 しばしの休息。彼らの骨休み。 極度の緊張状態から脱した彼らは、ただひたすらに眠りこけるだけであった。 月が落ち、日が昇る頃。 彼らを乗せた車は市街地を走っていた。 もうじき首都までたどり着く。 とは言っても、首都内に入れる訳ではない。 首都を結ぶ道路では、全て検問が行われており、厳密な調査が行われている。 不法入国者である彼らが見つかれば、その時点で逮捕か殺されることだろう。 そのため、一度首都周辺で足を止めて、其処から進入する算段を立てればいい。 幸いにも治安はよろしくない。 ということは、少々の不法入国者くらいは見逃してくれることだろう。 希望的観測に過ぎないが、まぁあながち間違ってもいないだろうきっと。 そんな安易な考えの中、人が集まる場所から僅かに外れた場所で車は止まる。 そうして、ファイたちが乗っていた荷台の扉が開いた。 「キホリア国軍、第三中隊所属、アルデ・リューイ軍曹であります。皆さん、お疲れ様です」 ピ、と敬礼をしながら運送業の格好をした男が言う。 あくまでカモフラージュなのだろう。
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