7442人が本棚に入れています
本棚に追加
それを知っているから、どうしても行動が出来ないのだ。
「僕は……」口を開きかけたジェンだが、途中で閉じた。
何を言いたかったのかは察しが付く。
ただ、今の自分がそれを口にしてはいけない立場だというのも、同時に理解した。
聡明だ。実に聡明だ。
この年齢にあるまじき才覚。
怯えるのではなく、立ち向かう事を選べる王子だ。
無言で下を向くジェンの頭をくしゃっと撫でてやるワルキ。
彼もまた無言だったが、その思いは手の平から伝わってきた。
心配するな。
ただひたすらに、それだけが分かった。
それぞれの部屋に割り当てられると早速一つ大きな部屋を借りて、作戦会議を始めた。
「さて、事態は急を要している。処刑の決行日時は明後日。此方の情勢と土地を完全に調べ上げた後に行動を起こそうかとも考えていたが、時間が足りん」
今日を除いて、準備は明日の一日だけ。
これでは種も満足に仕込めない。
「一応、城の見取り図は預かってきているんだぜ」
「預かってって……一体誰から」
「ア・ノ・ヒ・トから」
明らかに誤魔化す気全開のリオンである。
「はいはい、おししょー様からですね。分かります」
さっさとリオンからそいつをひったくると、テーブルの上に広げる。
またも詳細な見取り図。
進入経路までしっかりと書き加えられている。
「こんな事をする時間が有るんだったら、自分で何とかしてくれればいいのにねぇ?」
こめかみに青筋を浮かべながらファイはそう呟いた。
その言葉には笑うしかない。笑って誤魔化すしかない。やる気なんてあるもんか。
そもそも後始末をするのが面倒だってのに。
「……そういえばお前の正体について聞いていなかったな」
先程うやむやにされたことを大尉が聞く。
今度はファイが肝を冷やす番だ。
「にゃははは、おじさんの自信だったね。そいつは俺が、この中で一番強いってことさ」
「その自信が何処からくるのか、と聞いている。人間は虚勢ではそんな事を言わない。お前ほどの実力の持ち主だ。足るくらいは知っているだろ」
最初のコメントを投稿しよう!