突破

37/37
前へ
/617ページ
次へ
ぶつくさ文句を言うリオンであったが、ファイの一睨みで沈黙することとなった。 本当に崩天の弟子なのかいよいよ怪しい。 といっても、リオンとファイの関係はあくまでも兄弟弟子なので、別に不自然というわけでもないといえば無い。 まぁ、それでも不自然といえば不自然なのだが。 「ともかく、王子様を安全なところに置いといて、自分達が攻め込むって案は正しい。それが一番安全で確実な案だろうな。そのほかの戦略はともかくとして、だ」 ここで一呼吸を置くと、リオンは話を続ける。 「だけどな、それじゃ隣国からの干渉って事になってしまう。自分は安全な所に居て、勝手に隣の国の人間が悪政をぶちのめしたんじゃ、意味が無い。分かるだろ。あくまで「王子様が」ぶちのめした体を装わなくてはならないんだよ。人間ってのはバカだからな」 ビシ、とワルキに指をつきつけて言う。 「お前、王の武器たるものは何だか言えるか?」 「は……?」 唐突のことに答えられないワルキ。当然だ。 王様の武器なんて、考えたことも無い。 「王の武器は、臣下。自国の民。自らを慕う人間そのもの」 ワルキの代わりに返答したのは、大尉だった。 「ご名答。人が居なくては、それは国ではない」 リオンは片目を瞑りながら笑顔で居う。 なるほど、そういう事か。 ここでようやくリオンの意図が理解できた。 確かに、殺すのは簡単だ。何せ人間は数グラムの鉛をぶち込まれて死んでしまうのだから。 問題はそのあとだ。 殺した後、王国を取り戻した後、民が王についてくるのか。 一度は敗北した王が。 それでは意味が無いのだ。 王は強くなくてはならない。 いや、只単純に強くなくてはならない、といえば御幣がある。 確かに腕っ節も強く在るべきだが、何よりも精神面で強かでなければならない。 キレなければ意味が無いのだ。 その意図が理解できてしまった以上は、黙るしかない。 沈黙。 苦々しい回答。静寂を以ってして、この案は可決された。 後の細かい打ち合わせは軍人達が行った。 彼らもプロだ。 やるとなったら、最悪の状況を最良の状況に変えてみせる。 自分達に当てられた任務には忠実でなければならない。 作戦は決定された。 後は賽が投げられるのを待つだけ。 賽の目はいったい何を示すのか。 最良か、最悪か。 それを決定するのは、神でもなんでもない。 ただの人間だ。
/617ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7442人が本棚に入れています
本棚に追加