狼の牙

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「まて!」 三下が気持ちよく口上を垂れている時に響き渡る、一つの幼い声。 不愉快そうに三下は声の居場所を探し当てる。 そこにはフードを被った一人の子供がいた。 子供はそのフードを取り去り、その素顔をあらわにする。 「父上と母上を今すぐ放せ! 国賊め!」 叫び声をあげたのはジェンだ。 「これはこれは『元』王子様。わざわざご両親とご一緒する為に来られるとは。親孝行者ですなぁ」 くつくつと笑う三下。三下らしい男だった。 「ジェン! どうして戻ってきたんだ!」 「早く逃げなさい!」 今まで何処か無感情だった表情が途端に驚愕と絶望に染まる。 「良い余興だ。まずは、あいつを殺せ」 にやりと、思惑通りの展開になったことに対しての笑みを浮かべる。 側近の一人が一礼して、魔法を練る。 そして放たれる火属性の魔法は、まっすぐジェンへと突き進む。 周囲の人間なんて知ったことじゃない。慌てふためいて逃げる人々。 ジェンは逃げる事も恐れることも無く、その場に堂々と立っていた。 響き渡る絶叫、つりあがる唇、恐れない瞳、魔法は只熱を発しながら目標へと突き進む。 だが、魔法はその途中で突如として進路を変えた。 ぐにゃりと、それは放った本人へと向かい、防がれること無く衝突。 魔法反射に等しい現象だった。 そんなものは存在しないのに。 「国賊、ケーニッヒ・ハルトマン! この私、ジャリア・アルカ・ジェシー・ディー・ノレヴ・ジェサイアが、貴様を断罪する!」 その宣言と同時にハルトマンの瞳が見開かれ、唇が釣りあがり、白い牙が剥き出しになる。
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