狼の牙

9/21
前へ
/617ページ
次へ
遠くなるリオンの背中を見ながら、ワルキも一人城内へ突入して行った。 リオンほど華麗ではないが、何とか回避しながら彼は走っていった。 防御と一撃を加えながら進む。 城内に入ると完全にリオンを見失った。 複雑に入り組んだ道は侵入者を惑わせるためにある。 舌打ちをしながら本能にしたがって進む。 だがそんな彼の前に複数の男達が立ち塞がった。 見覚えのある姿だ。 「……お前等……!」 ギリと、奥歯をかみ締める。 苦い思い出が甦る。 こいつらだ。こいつらに、自分は敗北したのだ。 「誰かと思えば、いつぞやの餓鬼か。丁度良い、仕留め損なった餓鬼を始末するには丁度良い」 嘲笑交じりにリーダーらしき男がそういう。 ワルキはその言葉に対して何も言わなかった。 只、彼の心に在るのは、目の前にいるこの連中をぶちのめしたい。 その破壊衝動とも取れる欲求のみ。 あの夢がフラッシュバックする。 それが余計に彼の本能に火をつける。 「……お前達を、俺は赦さない」 ワルキはトンファを捨てて、素手で構える。 「お前達がジェンを殺そうって言うんなら、俺は、お前達を、ぶちのめしてやる。そいつが正しいってんなら、そんなもんぶっ壊してやる」 ワルキのその言葉に一人の男が笑った。 「やれるものなら……」 そいつは言葉を発する。おそらくはワルキに対しての挑発行為だったのだろう。 だが、その言葉が最後まで紡がれることは無かった。 たった一歩で距離をつめたワルキが顔面に拳を埋めていたのだ。 力任せに、上から下にねじ伏せるように。 何かの砕ける嫌な音が響き渡り、そいつは床にめり込んだ。 ウォォオオオォォンッ! 獣染みた咆哮が広い通路に響き渡った。 武器を捨てた事によって完全に油断していた男達は、その咆哮に怯む。 元々、ワルキは武器を使って戦うようなタイプではない。 徒手空拳こそ、彼の戦術スタイルだった。 喧嘩程度ならそれでも十分だろう。だが、それでは鎧に身を纏った兵士相手には厳しい。 だからこそ、なんらかの武装をする必要性が在った。 自らの拳を痛めない為にも。 だからこそ、最も自分の戦術にあった武器であるトンファを選択した。
/617ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7442人が本棚に入れています
本棚に追加