狼の牙

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それが彼にとって一番合った武器だったのだ。 別に自分の肉体を強化するという手段もあった。 尤もそれは嫌に魔力を消費する上に、自分自身は魔法がそこまで得意ではない。 だから、仕方なかったのだ。 しかし今は違う。 そんなの気にする必要性は無い。 ただ、目の前の気に入らない連中をぶん殴るために、拳を振るえればそれだけで十分といって良い。 ほんの一、二滴の返り血を頬につけたワルキは次の目標に肉薄する。 魔力は最初ッから全開。 温存なんてしない。 切れる前に殴り潰せば良いだけだから。 今度は腹に一発、それで怯んだ敵の腕を掴み壁に叩きつける。 そして、胸に拳を突き刺した。 血反吐を吐きそのまま崩れ落ちる。 その直後に背後から一人が切りかかってくる。 それを片手で白刃取りをすると、手刀でそれを叩き折った。 驚愕に染まる男の横っ面に、回し蹴りが決まり、そいつの顔は歪んで地面に強かに打ちつける。 そいつを蹴った反動を利用して、次の男に殴りかかる。 一撃目は避けられた。 だが、反撃に移ろうとしたその隙にワルキは付け入った。 足払いをかけてやると、そいつの体は面白いように宙を浮く。 そいつの体を更に蹴り上げた後に、両の拳で叩き落した。 床にひびが入り、血反吐を吐いて痙攣をする。 素手で武装した男達を、圧倒するワルキ。 そいつの顔面を踏みにじり、再び咆哮。 ワルキは人間だ。種族などで分けてしまうというのなら、彼は生粋の人間だ。 決して獣人などではない。 獣人は身体能力が普通の人間と比べた際に、僅かに勝る。 それは動物の遺伝子を僅かに受け継いでいるから、という話もある。 だったら、より野獣的でなければならないのは男達の方だ。 だというのに、今はその関係が逆転している。 普通の人間がより獣染みていて、獣人がより人間染みている。
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