狼の牙

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左手の親指を真下に突きつけて言ってやる。 「冗談はその頭だけにしてくれ。現実に私の部下にてこずっているようでは……」 それを言い終わる前に、隣に立っていた男の首が消えていた。 目を見開き驚きの表情を見せるケーニッヒ。 その顔には飛び散った血液が。 不意に訪れた静寂をかき乱すのは、頭蓋が地面を叩く音。 鞠のように跳ね、床を転がる。 肩から下はしばらくその場に硬直したが、やがて床へ吸い込まれるように倒れていく。 首無しが血液を撒き散らしながら沈む光景は何ともいえない。 「さて、前座は終了した。始めようか、メーンイベントって奴を」 バチリバチリ、火の爆ぜる音と紅蓮を従えて。 リオンは刀の血を払った。 ――――― ッハァッハァ……ッ! 薄暗い廊下の中、激しい呼吸音と拳が風を切る音が聞こえる。 息も切れ切れに拳を振るう少年の足元には幾つもの死体が。 そのどれもが、無残に潰されたり引き千切られたものばかり。 まるで獣が食い荒らしたかのよう。 内臓から飛び出した胃液や、汚物が飛び散り異臭を放っている。 そのすべてはワルキの仕業。 そして呼吸を荒らげているのも、ワルキだ。 相対しているのは残る一人。 だが最後のこの男、リーダー格を張っていただけあって強い。 それだけでなく、ワルキ自身にも限界が訪れていたのだ。 魔力の糸目を付けずに放出、使用し続ければあっというまにこうなるのは当然のことだ。 身体強化系魔法なんて燃費の悪いものを使い続ければこうなるだろう。 普通は、こうなるのだ。 先程と比べると、動きにキレがなくなってきた。 「どうした、動きが鈍って……」 言いながら男は拳をワルキの腹に突き刺してやる。 「来たぞらぁ!」 肺から空気が捻り出される。 腹部を押さえて膝をつく。 その腹部を蹴り上げてやると、ワルキの体は簡単に飛ばされる。 汚物と血肉まみれになりながら床を転がる。 視界がぼんやりと霞んできた。
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