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店を出ようとする直前、背後から慌ただしい声が聞こえて来た。
「あの人は、もう帰ったのか?」
ふと気になって、振り返ってみるとそこには写真でよくみた人物がいた。
この店のオーナーシェフ、ハマー・レイストンだ。
「伝言を頼まれた方ですか? でしたらもう既にお帰りになりましたけれど」
店員の一人がそう言うと、少し肩を落として「そうか」と言って、そのまま厨房へと戻っていった。
「なんだったのかしら?」
カレナがどこか寂しげなオーナーシェフの背中を見て、ファイに尋ねた。
「……さぁ? リオン様に何か話したい事でもあったのかな」
内心、心当たりはあったものの、流石にオーナーがここまで這いあがるきっかけを与えた人物が、リオンかもしれない、とは言えなかった。
当然、現在の年齢でリオンが子持ちで、育てていたなんて事はありえない。
この店のオーナーが子どもの時に、その人物とはであったのだから。
そもそも、自分達が生まれる前の話だ。
「何の用があったんだろうか」
これはもうすっとぼけるしか無い。
正体が本当にばれかねない事だ。
ほんの少しだけ言っただけでは、信じはしないだろうが。
「ま、とにかく行こうか」
ファイは未だ疑問に思っている、四人を促す為に、自分が外へ出た。
空には満点の星空。
こんな状況でなければ、このまま夜の散歩でもしていた事だろう。
そのまま近くの人気のない公園まで行って、二人は近づいて愛をささやき、そして口づけを……。
まさか、奥手な二人が一気にそこまで進むとは思えないが、それなりの進展はあったはず。
うやむやになっていた、夏祭りの一件をはっきりとさせるにはいい機会だったのかもしれない。
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