狼の牙

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足は笑い、四肢に力を込めても血液によって体を滑らせる。 「ここまでだなぁ、糞ガキ」 ワルキの頭を踏みつけて忌々しげにそういう。 「感謝しろ。時間がねぇからとっとと介錯してやる。普段だったらこれからなぶってる所だったがよ」 その右手には氷柱が。 「じゃあな」一言、別れの言葉を発すると氷柱はワルキの心臓目掛けて落ちる。 ワルキ敗北にてゲームオーバーかと思われたが、そこに文字通り横槍を入れるものが現れた。 鉄製の槍は、氷柱を砕くだけとなった。 冷や汗を流す男。今の一撃は間違いなく腕ごと突き刺す一撃だったに違いない。 「何もんだ」 「語るな、三下」 現れたのはジェンの傍らにいた男だった。 彼はワルキを庇うかのように前に立つ。背からはワルキとは比較にならない程の闘気。 だがそれは凛とした美しささえある。 ワルキの荒々しい闘気とは全く別の質を持っている。 「引け。生命が惜しいのであれば」 敵を前にして言う。 「はいそうですかって、俺が聞くと思うか?」 「神喰いに、大層な自信だ」 彼はそういうと拳を握り、無造作に突き出す。 放たれた拳圧は敵の顔の横を抜け、風を巻き起こす。 本能は言う。ならば引けと。 だが、たかが人間の小僧一匹仕留められないなんて、屈辱だ。 そして何よりも自分の信用性に関わる。 退く訳にもいかず、かといって進む事も出来ない。 生か死か。生きたければ引くべきだ。ただそれはいずれのたれ死ぬという事でもある。 進めばこの場で死を選ぶということ。 選択したのは―― 「この家業がやってられるかぁああああ!」 死、だった。 一言、愚かな、と。 聞こえたのはそれだけだった。 後は只、血飛沫が舞うだけだった。 「手ひどくやられたな」 振り返りそういう。 「後先を考えずに力を使い切る。若しくは使い切らない。この極端な性格、どうにか為らないものか」 「うる、せぇ」何とか口から発せられたのはその言葉だけだった。 「まぁ良い。ここまで出来れば上等だ」 それと同時に、ワルキは意識を手放し、休息に入った。 握られた拳は開かれ、戦いを止めた戦士はひたすらに眠る。 次に目覚めた時、護りたい人たちがそこにいます様に。 そんな少年の姿を只、男は見下ろしていた。神喰いと自称する男は、何を思っているのだろうか。 「これも、無理がくるな」 呟く。 ――――――
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